第58話 死人の町
「……本当に出た。まるであそこだけ昼だな」
なんというか。
今は多分深夜のはずなのに、突如昼がそこだけ出現している。
そんな感じなんだな。
で、当然だけど光が溢れてくる。
そこだけ昼なんだから。
……そりゃ気づかれるし、興味も出てくるよな。
なんか面白そうな場所なんだもの。
ここから見える範囲でも、蕎麦屋の屋台をやってるおじさんがいた。
串焼きの屋台も見える。
……何も知らなきゃ、入ってみようって思う奴も出るでしょ。
でも、入った人間で出て来たヤツは居ない……
「勇者様、最後の確認だ」
ずい、と。
トゥーラミラーの包みを差し出しながら、リリスさん。
「本当にこの町に剣があるのか、最後にもう1回確かめて貰えるか?」
……まぁ、それは要るよね。
この町が関係無いのであれば、無用な危険を冒すことになるんだし。
なので俺は手早く出発の準備を整えて、鏡に触れる。
すると……
(あ……)
感じる。
この町の中に、剣がある。
俺は確信をした。
なので
「リリスさん、間違いない。ここにある。今ハッキリと感じた」
ハッキリ、伝える。
リリスさんは頷いた。
意を決して、町に足を踏み入れる。
俺がまず、1人で入り。
町の中の、通行人1人……おじさんに近づいて、話し掛けた。
「もしもし」
通行人のおじさんはこちらに気づいて
「……見ない人だね? 旅人かい?」
そう訊ねて来たので。
「ええ、まぁ。ここって何ていう町ですか? すごくびっくりしました」
ちょっと幼めの表現で、警戒心を持たれないように気をつけながら返答。
ついでに町の名前を訊ねる。
何か情報が芋蔓式に増えるかもしれないし。
すると男性はこう教えてくれたよ。
「……ここはカタスト。新月の町だ。良いところですよ」
ニコリと。
俺に微笑んで、おじさんはそのままどこかに歩み去って行った……
カタスト……それがこの町の名前……
「カタストって町みたい。何か心当たりは?」
入り口まで戻って来て、町の外に待機している仲間たちに合流。
……町に入っても、今は問題なく出れるみたい。
だとすると、町に入ることは出られなくなる条件では無いのか。
他に理由があるってことか。
それは……
「カタストですかァ」
ロリアがカタストを知っていた。
流石に博識。
助かる、と思いながら彼女に視線を向けた。
彼女は
「前に申し上げましたァ、幽霊になった町の名前が確かそれですよォ。ということはァ、この町は死人の町ですねェ」
……そんな、戦慄する答えを返してくれた。
じゃあ俺、今さっき死人と会話したのか……?
そう思うと、さっきのおじさんの笑顔がとても恐ろしいものに思えてきてしまう。
俺たちのことを、仲間に引きずり込もうとしていたってこと……?
ゴクリ、と唾を飲む。
正直に言えば入りたくないけど。
入らないと剣は手に入らない。
だから
「……そういうことだから。この町に入るのは俺だけでも良い……無理強いはしない」
仲間を見回しながら、そう言った。
入ったら2度と出られなくなるかもしれない死人の町。
そこに強制的に行かされる。
それは何か、違うだろ。
万一の犠牲者は少ない方が良い。
そういう考え方もあるわけだし。
だから訊いたんだけど
「私は行くわ。当然よね」
姉さんは全く動じずに即返答。
「ワタクシも同行いたします。死人の町なら神官のチカラは要るハズですわ」
ジェシカさんも即答。
迷いナシ。
「私も付いていく。鏡が必要である以上、同行は必須だ」
リリスさん。
家宝を一時的とはいえ、手放すのは出来ないか。
「こんなオイシイ場面をォ、危険程度で見逃すなんてェ、詩人としてありえませんよォ」
ロリア。
自分の作品のためならば、命も賭けるってことか……
結局、全員。
不安ではあるけど、確かに全員必要だし。
仕方ない。
絶対にこの町に囚われないようにしないと。
「分かった。行こう皆」
俺はそう呼びかけて。
回れ右をし、再び町に……
死人の町・カタストに足を踏み入れて行った。
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