第57話 噂話の町?

「昔の話ね。懐かしいわ」


 そう呟く姉さんに


「可能性としてはァ、そういうこともあるかもしれませんねェ」


 突如ロリアがそう繋いで来た。

 ……可能性?


「可能性ってどういうこと?」


 ちょっと意味が分からなかった。


 ロリアは切った野草を追加で鍋に放り込みつつ


「実はァ、噂話でですねェ、こういう話があるんですゥ」


 そして彼女は教えてくれた。




「ふーん……はみ出し者が集まって、町を作ってて。その町があまりにも醜かったので神に裁かれ滅んだ、と」


「はいィ」


 ……初めて聞いたな。


 つーか……

 神罰って実在するのかな?


 そういう具体的なヤツ。


 気分的な神罰はそりゃあるだろうとは思うけどさ。

 例えば、他人に迷惑を掛けた後に不運を実感する、みたいな。


 でも具体的な、町ひとつ滅んでしまうような神罰……


 俺はジェシカさんを見る。

 ジェシカさんは……


 驚いた顔をしていた。


 あ、この人も初耳なのか。

 こういう話は知ってそうな気がしたんだけどな。


 神官としてはすごく色々出来る人だから。


 一応訊いとくか


「ジェシカさん、ご存じないんですか?」


 すると


「ええ。そういう話は聞いたことはありません。ここ、海辺でも火山の傍でも無いですし」


 ……ああ、そういうのはあるんだ。

 津波に呑まれたり、火山噴火に巻き込まれてしまって町が消えることを「神罰」って言ってしまう事例。


 ひでぇな。

 災害なのに。


「その町はァ、自分たちが裁かれたことが受け入れられずにィ、町の幽霊になってたまに現世に出現するそうですゥ」


 ……怪談か。


 幽霊……

 俺はリアルでは遭遇したこと無いけどな。


 人は死ぬと冥界という別の世界に行くけど、未練でこの世に留まってしまう事例があるんだ。

 それは強い憎しみだったり、生前やりたくてもやれなかったことだったり。

 そんな事例の中心的存在を、幽霊と呼ぶ。


 俺は遭遇したこと無いけど、実在が疑われるものじゃないそうで。

 神殿組織の中には、そんな幽霊を冥界に行かせるために修行している神官がいるそうな。


 ……多分ジェシカさんなら良く知ってそうだな。

 ひょっとしたら対処法も知ってるかも。 


 チラ見してみると、何か向こうも気づいて。

 何だか悪いことをしている気分になり、俺は目を逸らしてしまった。




「勇者様、勇者様」


 そしてその晩だった。

 交代で寝るという話で、俺が寝る順番になったとき。


 寝入ってしばらくだ。


 いきなり、揺り起こされた。


 起こしたのはジェシカさん。


「あ、お」


 言葉を発せずに、口を拭って目を擦って起き上がると。

 他のメンツはすでに起きていて。


 キャンプもほぼ片付いていた。


 そして


 ……目の前に、あったんだ。


 突如出現した、明るい町が。

 規模としてはごく一般的な町。


 都以下、集落以上。

 そんな感じだ。


 目の前で。

 何故かその町のエリアだけ、昼の輝きを放っていた……

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