第60話 俺の父親の話
「大きくなったなぁ! 俺が家を出たときはチビだったのに。セリスちゃんも大きくなった!」
俺の父親という男が喜んでいる。
で、カウンター席を立って近づいてきて。
抱きしめられた。
俺が。
俺がだよ。
で、頭を撫でられる。
「お義父さんなんですか?」
その様子を見ていた姉さんが、再度確かめるように言う。
父親は頷いて
「ああ、置いて出て行って悪かった。……パッと母さんを取り返して、家に帰って来るつもりだったんだけどなぁ」
そんなことを困ったような顔で言ったんだ。
頭を掻きながら。
……へ?
母さんを取り戻す……?
「お前の母さんは、お前が3才くらいのときに失踪したんだ。……お前とセリスちゃんを置いて」
飲み屋の外に出て。
俺の父親はそう言った。
……3才?
俺は自分の3才のときの記憶を探ったけど……
小さいときに、そういえば
知らない大人の女性の記憶が……
あるのか?
だけど
『あなたは魔王を倒しに行くの』
そこでふと、蘇って来る記憶。
そんなことを言う女性が、大昔居た気がする。
そんなことを思っていると
「お義父さんの言ってることは本当よ」
姉さんがそこで、俺の父親の言ってることを肯定した。
「子供のあなたが母親に捨てられたなんて知ると、歪んで育ってしまうかもしれないから、死んだことにしようってお義父さんが私に言ったの」
姉さんは少し渋い表情をしていた。
やむを得ないって思ってのことだったんだな。
その表情で姉さんの気持ちは理解できたから、文句を言う気は俺には無かった。
「アルフごめんなさい」
だから、そんな姉さんの謝罪には
「いいよ。別に姉さんが居たから、母さんが居なくて嫌だったわけでもないし」
そう返す。
「おお! 偉いぞ! ちゃんとセリスちゃんと姉弟の関係性を築き上げてるんだな! 父さんは嬉しいぞ!」
満面の笑みで、また俺に父親が抱きついてくる。
で、やたら頭を撫でてくる。
……この人の中では、俺は7才のガキのままなんだな。
それが流石に理解できた。
だから
「やめてくれよ」
ちょっと迷ったけど、拒否。
話が進まないし。
それにガキ扱いされて喜ぶほど俺は幼稚でもない。
俺の父親は、魔王の島に臨む岬「魔王岬」で母さんに出会ったらしい。
幼い姉さんを連れた母さんに。
そのとき父親は母さんに一目惚れ。
最初子連れだから人妻かと思ったんだけど
「この子は引き取った子です。どうしても見捨てられなくて」
そう言って、身の上話をしたそうだ。
自分には大切な夫が居たけど
なんとか単身魔王の島に渡って、魔王城から宝物をとってくる。
魔王の財宝を手に入れられれば、俺たちは億万長者だ!
「そんな、夢みたいなことばかり言ってる人でした。優しい人でもあったんですけど。大好きでしたけど」
……俺の母さん、こう言ってはなんだけど。
男の趣味悪く無いか?
クズじゃん、そいつ。
俺の父親……いやもう、こう言おう。
親父が話す俺の母さんの話を聞き、思ったことはそれだった。
で、その母さんの元夫様はある日、その妄想を決行。
神器も無しに小さな船で魔王の島を目指して出発し。
そのまま帰ってこなかった。
……そいつ、アホ過ぎる。
悪いけど、それ以外言えない。
で、小さなセリス姉さんと2人、残されて途方に暮れていたときに親父に出会い。
数か月後に結婚して俺誕生。
結婚の切っ掛けは、母さんが妊娠したかららしい。
……デキ婚だったんかい。
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