第25話 キモい奴ら

 岩場を苦労して歩き続け、問題のスポットに到達。


「ここなんだよね?」


 俺のそんな確認に


「そうね」


「ええ」


「ですねェ」


 3人が肯定をくれた。


 ……この岩の向こうに、人魚が……


 ドキドキしてきた。

 ただし、怖いもの見たさだった。


 ……人魚というと、良いことがあると「トロピカッてる」と言って神に感謝をするカワイイ種族。

 そういうイメージだったのに。


 現実は違うという。


 ……果たして?


 そして俺は岩の向こうを覗き見て、絶句した。




「今日は天気がいいね。トロピカってるよ!」


「生きてるって感じ!」


「キラやば~っ! このヤドカリ美味しそう!」


 ……声はさ、何故か女の子の声なんだけどさ。


 姿がさ……


 全体的なフォルムは、イメージしてた人魚に近い。

 フォルムだけはね……。


 すなわち、下半身が魚で上半身が人。


 ……それはイメージ通りなんだけど。


 まず、体長が3メートルくらいある。

 そして、太った印象で。

 その上、体全部が蛙の皮みたいな湿った皮膚で覆われている。


 ……水棲生物としては正しいのかもしれないな。

 水に体温を無用に奪われないように、とか。

 海水の塩分について発生する問題をやり過ごすため、とか。


 頭。

 髪の毛が無い。

 つるっぱげだ。


 顔。

 鼻が無く、その部分に穴だけ開いてる。

 まぶたが無く、まばたきする能力が無かった。

 首が無く、頭部と胴体が一体化している。


 なので、顔が異様に大きく、顎の無い平たい顔なんだ。

 人面には見えるけど、不気味としか言いようがない。


 手だけは奇跡的に、形状だけは人と変わらない。

 皮膚が蛙だけど。


 ……そんな生き物。


 確かにイメージとは全然違う。

 正直、キモい。


 でも、言葉は同じなんだよな……


 なので


「こ、こんにちは!」


 ……思い切って岩場の外に出て、挨拶をしてみた。

 笑顔を作って。


 すると……


 向こうの空気が硬直する気がした。


 そして


「に、人間だァー!」


「めちょっく!」


「キモやばーっ!」


 ……次々に悲鳴をあげて、人魚たちは海に飛び込んで姿を消していったんだ……

 海から水飛沫が飛び、波紋を残して全員が数秒で姿を消す。


 えっと……?




「キモいって何なんですか! 失礼ですよあの生き物!」


 街の冒険者の酒場に戻って来て。

 注文したドリンクを飲みながら。


 ジェシカさんが憤慨していた。

 うん、彼らの言動には正直良く分からないところはある。


 俺たちが何でキモいって言われるの!?

 彼らの方が見た目は不気味じゃん!


 そう思い、内心ジェシカさんの言葉に同調していた。


 見た目が一般イメージと全然違ってて、それが問題だと言うなら、俺たちが嫌悪感を抑えて交流すればいけないかと思ったんだけど。

 まさか向こうに逃げられるなんて。


 どういうことなのよ。


 理解できなかったから俺は「彼らは視力に何か問題を抱えているのかな?」と言おうとした。

 割と真面目に。


 だけど


「……単一価値観でものを考えるのはやめなさい」


 姉さんが穏やかだけど、反論を許さない声音でそう言ったんだよね。

 えっと……?


 俺たちは、固まる。

 そして俺たちの視線を浴びながら姉さんは


 教えてくれたよ。


 人魚と俺たちの間に存在する、とても大きな溝について。

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