第4章:海と水棲の魔女

第24話 真実の人魚

「水棲の魔女に会いたい?」


 カノンの街に入り、俺たちは水棲の魔女に会う方法について街の住人に訊いて回った。


 すると、皆


「ああ、無理無理。会っても逃げられるし、こっちも嫌な思いをするだけだから」


 そんなことを言って、否定してくるんだよな。

 一体何なんだ?




「一応、何処に行けば遭遇できるのかは分かりましたけど」


 街の冒険者の酒場で。

 皆で1つのテーブルに着いて。


 ジェシカさんが果汁入りの水を口にしながらそう一言。

 どうします?


 と言った感じで。


「姉さんはどう思う?」


 俺は隣の席で水とパンで食事をしている姉さんに訊ねた。


 こういうときは姉さんの知恵だ。


 すると


「……なんとなく理由は分かるわ」


 パンを千切ってもぐもぐ食べながら、教えてくれた。


「人魚ってね、姿が私たちと違い過ぎるのよ」


 ……えーと。


 それって問題なの?

 違うって言ってもあれでしょ?


「……アルフはおそらく、上半身がカワイイ女の子、下半身が魚ってのを想像してるかもしれないけどね」


 姉さんはパンを飲み込み。


「あれは物語用に創作された偽りだから。本当は違うのよ」


 えっ?


 ……知らんかった。

 人魚って、口癖が「トロピカってる」で、底抜けに明るいカワイイ種族だとばかり……


 そしてそれはジェシカさんもそうだったらしい。

 人魚は魔物では無いって知ってはいても、具体的にどういう生き物なのか知らなかったようだ。


「そんなに違うんですか?」


 姉さんはジェシカさんを見て頷く。


 えーと……


 どんなんなんだろう……?

 問題になるぐらい違うって……


 色々想像する。

 魚のヒレの代わりに人間の手足が生えてるのやら。

 人間に鱗が生えて、顔面が魚なのやら……


 だから、訊いた。


「どんな感じなの?」


 すると、姉さんは教えてくれた。


「外見を口で言うのは難しいわ。ジュゴンって生き物を知ってるかしら?」


 ……ジュゴンが分からない。


 俺とジェシカさんは首を左右に振る。


 姉さんは困ったように息を吐き


「……じゃあ、1回見に行きましょうか」


 それで全部分かると思うわ。

 そう提案し、パンを全部食べ終えて。


 姉さんは席を立った。




 人魚たちは海水浴場の外れの岩場に良く出没するらしい。

 そこまでは聞き込みで分かってて。


 覗きに行った。


 岩場を歩き、そのスポットを目指す。


 ……歩きにくいな。

 滑るし……


「あっ!」


 って、俺が見ている前でジェシカさんが転びそうになる。

 俺はとっさに腕を掴んで支える。


「危ないですよ」


「……ありがとうございます」


 ジェシカさん、申し訳なさそうだった。

 で


「……この前のラミアのときはすみませんでした」


 ……こんなことを言ってきたんだ。


 ええと……


 ラミアの嘘をあっさり信じたことを言ってるのかな?

 でも、それは……


「いや、別にあれはあれで良いでしょ」


 俺はそう返した。


 神官が助けを求める誰かを易々と疑うのはやっぱ違うだろ。

 正しく無いとダメだと思うんだ。俺は。


 それは答えとして正しいって意味じゃない。


 人として正しいってことだ。


 だから


「別に神官としてなら、普通の回答だと思いますよ。気にしなくて良いです」


 俺はそう言ったんだけど。


 ジェシカさんは何か納得していない感じだったな。

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