第101話 告白

 大急ぎで宴に出ても構わない小奇麗な服を用意して。

 姉さんの言ってた「市長の宴」に出席した。


 市長の御屋敷の大広間で。

 様々な料理の並んだテーブル群。


 そして結構な数の参加客。


「いやいやいや、頑張ってください勇者様!」


 デビルサイド市長は太めの男性で。

 口髭を生やした灰色の髪の中年。


 市長を名乗るに相応しい衣服に身を包み、酒の満たされたグラス片手に。

 そんなスタイルで挨拶された。


 ……神器を揃えて、リアルで魔王の島に渡るって前代未聞なのかな。


 それが上手く行ったら、魔王討伐勇者とコネクションが出来るから、今のうちに送り出す宴でもしておいて、後からリターンを期待しようとか。

 そんな感じなのかもしれない。


 俺は愛想笑いを浮かべつつ、義理を果たすべく頭を下げていた。

 ……正直、すっごい辛いわ。


 この旅に出る前は、魔王討伐に出るのだから、少しくらい特別扱いしてくれても……

 そんなことを思っていたけど。


 こうして降って湧いた特別扱いがあるとさ。

 これはこれで、しんどいわ。


 市長の長い話を愛想笑い浮かべて対応して。

 ふとバルコニーを見たら。


 姉さんが1人、バルコニーの手すりに寄りかかり。

 外で夜風に当たっていた。

 姉さんは緑色のドレスに見える服を身に着けてる。


 ……俺は意を決した。


 宴の会場から離れ、俺もバルコニーに出る。


 そして


「姉さん」


 俺がその背中に声を掛け。

 それで振り返り、俺に


「アルフ、何?」


 そう返す姉さんに。


 俺の方も、あの塔を出てから抱えていた想いを口にした。


「俺、姉さんのことが好きになってしまった」




 俺の言葉を聞いた瞬間、姉さんの顔が強張った。

 姉さんの方も肌で感じていたのかな。


 俺の気持ちの変化に。


 ……原因は、あの試練だ。

 5重の塔4階の、罪の告白に関する試練。


 俺はそのために、仲間の女性3人を妊娠させた実感を得てしまった。

 そして姉さんは、俺と関係を持って妊娠した実感を持った。


 そこから俺たちの関係がおかしい。


 嘘の話で、実際は何もないけど。

 実感という形で、そうなったときの気持ちを疑似体験してしまった。


 そのせいだと思う。


 それだけじゃない。


 ……あのとき、同時に魔物インキュバスに姉さんが寝取られていたという嘘の事実を突きつけられた。

 他の2人、ジェシカさんとリリスさんもそうだったんだけど……


 心が闇に沈んだのは、インキュバスを心底許せない、殺してやりたいと思ったのは、姉さんの話だったんだ。

 他2人の告白で抱いたのはただの同情だったのに。


 ……この差がどこから来るのか。


 そんなの、さすがに俺でも分かる。


 俺の告白に、姉さんは。


 スッと真剣な顔になり、俺を見つめ


「……本気なの? アルフ?」


 そう、問うて来たんだ。

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