第102話 姉さんが居なくなった日

 本気なの? アルフ?


 姉さんの言葉。


 ……本気さ。

 多分、これが本当に女性を好きになるってことなんだと思う。


 だから


「本気だよ」


 そう答えた。


 すると……


「アルフ、あのね」


 姉さんは強張った顔で俺に


「……人間はね、自分の生まれた育った環境とは別の環境の人を、自分の人生のパートナーに選んで、イチから関係を構築することで、世界を広げて大きく成長するのよ」


 必死で、言って聞かせるように


「私をその相手に選んでしまうと、アルフ、あなたにはその成長が永久に訪れなくなるのよ? 本当にそれでいいのね? その覚悟はあるの?」


 ……説教。

 言ってることは多分正しいんだと思う。


 俺たちは血は繋がってないけど、事実上実の姉弟とほぼ変わらない関係だ。


 何故って、俺が生まれたときから、姉さんは傍に居たんだもの。

 そして親父が出て行った後は、姉さんに育ててもらったも同然だ。


 だけど……


「俺はその成長と引き換えにしてもいいよ……」


 俺は自分の意思を口にした。

 俺にとっては、そんな理想的な成長よりも……姉さんが俺の隣に居る女の人になってくれることの方が大事なんだ。


 というより


「姉さんはどうなんだよ……?」


 俺の成長を言い訳にしてるけど。

 姉さんの気持ちはどうなんだ?


 やっぱ、弟として接して来た男を、今更男としては見れないの?


 でもさ、姉さんの態度……


「アルフ」


 姉さんは少し視線を逸らし。

 再び俺を見つめて


「……私は、あなたの子供を身籠ったって思ったとき、嫌じゃ無かったよ」


 その言葉を口にするとき。

 姉さんは少し、震えていた。


「でね」


 そこで姉さんは沈黙した。

 意を決するためか。


 そして


「他の女の子も妊娠させていたって言われたとき……言わなかったけど、本当は他の2人に嫉妬心を持ってたわ。奪われた、って」


 そう、言ってくれたんだ。


 ……じゃあ……。


 でもそこで、姉さんが最後の足掻きのように


「でも、本当に良いのね? 私があなたの女になったら、あなたは普通じゃなくなるわ。それは普通の関係性じゃ無いんだから……」


 そう、おそらく姉さんの考える一般論。

 それを並べ立て、俺の決断に対する再考要素を突きつけて来る。


 その顔は、なんだか小さい女の子のように見えた。

 自分の思いの正当性に自信が無いから、俺に再考を促して、自分の気持ちに蓋をするための……


 他人を当てにしている。

 そんな、女の子。


 だから俺は


「……もう良いよ。セリス」


 生まれて初めて、俺は姉さんを呼び捨てた。

 呼び捨てられた姉さんは、驚いたけど……


 別に怒り出したりしなかったんだ。


 だから俺は……決断した。


 セリスを抱き寄せた。

 ……昔は俺より大きかった女性。


 5才年上だもんな。

 当たり前だけど。


 今は俺より少し小さい。

 俺も大きくなったもんだ。


「……本当に、いいのね?」


 俺の腕の中から、セリス。


「良いって言ってんじゃん」


 何度同じことを言わせるのさ。

 そう俺は思った。


 なので俺は、勇者らしく。


 勇気を出すことにした。


 俺はそっとセリスを上向かせ。

 そのまま、キスをしたんだ。


 初めてだったから、ちょっと震えたけど。


 セリスは……抵抗したりはしなくて。

 受け入れてくれたんだ。

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