第103話 秘密

 バルコニーからセリスと一緒に宴の会場に戻った。


 出るとき、手を繋いで。

 そして俺と一緒に会場に戻り、すぐに手を離す。


 ちょっとまだ、仲間に言うのは止めておこう。

 気が緩んでるんじゃないのかって思われると事だし。


 それに……


 例え義理でも、やむを得ない流れとは言え姉弟で男女の関係になるっていうのは嫌悪感を持つ人はいるだろうし。


 今は大事な時期。

 公表するのは、魔王をなんとかしてからにしよう。


 だから


「姉さん、俺たちのことを皆に言うのは……」


 そう、言おうとしたとき。

 視線を感じた。


 見ると……


 他所行きのワンピース衣装に着替えている、これまで俺たちの世話係、斥候役をしてくれてきた少女。

 そばかす、丸眼鏡、薄緑色の髪。


 ロリア。


「……勇者様ァ。ラブロマンスですかァ……」


 ニチャアアア、と笑みを浮かべつつ、俺に。


 俺は


「悪い、ロリア」


 彼女を真っ直ぐに見つめて


「今見たものは魔王討伐が終わるまで黙ってて。終わったら、歌にでも何でもして良いから」


 釘を刺しておく。


 すると


「分かりました~」


 あっさりそう言って、受け入れてくれた。

 俺は胸を撫で下ろす。


 まぁ、これで大丈夫だろ。

 ロリアは馬鹿じゃない。


 俺との信頼関係が大事なことは絶対に分かってる。

 歌を作っても、勇者がその歌を全否定したら価値がゼロになるもんな。




 そして宴が終わり。


 数日後だ。


「いよいよですね。勇者様」


 ジェシカさんが魔王岬の上に立ち、海を見つめる。


 その表情は、思うところのある顔だった。

 狂信者のジェシカさんだったら、諸悪の根源と思われてる魔王の居る場所に乗り込むのだから、自分酔いしそうな印象があるけど。

 真剣に。真摯に。一体この先何があるのか?

 そういう思考に染まった顔だった。


 ジェシカさん、ここに至るまで、魔将サウラスの話を聞いたからだろうか?

 多分、魔物や魔王に憎悪や嫌悪以外の、ある種の強い興味を持ってる。


 ……何か、そんな気がするな。

 俺も色々思ったし。魔王に向き合った際には、訊いてみたいことがある。

 今は、国王陛下に与えられた使命だから魔王の討伐を目指す、だけじゃない。


 自分たちの意志で、本心から魔王に向き合いたいと思ってる。



 俺たちは今、魔王の島に続く海に面した岬……魔王岬にいた。


 この先の海を越えると、魔王の島に辿り着く。


 船で行く場合、この岬の先に集中的に棲息しているシーサーペント、クラーケン、メガロドン、シージャイアント、モササウルス……

 海の魔物の最強格たちに群がられ、まず無理。


 絶対途中で沈められ、海の藻屑。


 そういう場所だ。


 水棲の魔女の話では、三種の神器を揃えると、魔王の島へ渡ることが出来るって話だけど……


 どうするんだろうか?


 まぁ


「リリスさん、鏡を貸して下さい」


 これが基本だよね。

 ……神器を1人の人間が1度に保有。

 これで何か起きるかも……?


「勇者殿、分かった」


 リリスさんが荷物を探り……


「頼む。任せた」


 ……鏡の包みを出して、手渡してくれた。


 ここに、三種の神器が全て揃った……


 そのときだった。


 ザザザ……と大きな水音がし。

 変化が起きた。


 ……なんと


 海が真っ二つに割れたんだ。

 海底が剥き出しだ。


 その道は、真っ直ぐに続いていく……


 おお……


「……三種の神器で魔王の島までの道が開けるっていうのは、こういうことだったんですねェ~」


 メモ帳にメモをするロリアの言葉。

 俺も感動していた。


 ……すごい!


「……とりあえず、1回この道を行きましょう」


 きっと1度、魔王の島に到達しないと分からないことがあるわ。

 姉さん……セリスの言葉は、俺も納得せざるを得なかった。

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