第64話 悪意の町
「ここで剣を持つ男を見つけたんだ」
親父は語った。
そして親父はそいつに頼んだんだそうだ。
譲ってくれ、と。
あとで埋め合わせをする。
何なら借りるだけでもいい。
後でさらに指輪の神器を付けて返すから、貸して貰えないか?
そう言ったら。
「いいよ。タダであげるよ。必要なんだよね?」
……やけにあっさり譲ってくれたんだそうだ。
それを怪しいと思うべきだったんだけど、親父は大喜びで受け入れた。
親父によると、残りの神器のアタリはついてて。
鏡についてはだいぶ前に「何故か天候による災害が一切起きない奇跡の土地」の話を聞いてて「神器を持ってるんじゃないか?」と。
親父もリリスさんの実家を疑ってたんだ。
指輪については……
この国で唯一、危険な土地となってる地域がある。
それは魔の土地「デモンド」
あの指輪を持ってる国を滅ぼしたという魔物の軍勢が出て来たと思える土地だ。
そこに大量の魔物が存在していることが確定の土地だけど、そこから一切魔物が溢れ出て来ない。
理由は分からないんだけど。
なのでこの国が成立したときに、地続きなのに唯一併呑されなかった土地なんだ。
潰して滅ぼしてしまうのはあまりにリスクが大きい、わざわざ寝た子を起こすな、って。
探検するためにこっそり潜入した人の話では、奥に塔があるらしい。
5階建ての塔で
5重の塔、って言われてる。
デモンドの入り口には一応、国の兵士が居て、不用意に誰かが入らないようにしてるけど。
どうしても入りたい場合、念書を書かされるらしい。
中で魔物に襲われても救助を求めない。
そして遺族が誰かに自分の救出依頼を出すことも一切拒否します、って。
どうしても入りたいなら止めないけど、一切他人に迷惑かけるなよ?
そう言われるわけだ。
……なるほど。
実は自分も、指輪についてはデモンドの可能性はあるなとは思ってたんだけど。
絶対の確証も無いし、最初の候補に上げるにはあまりにも危険だから後回しにしてたんだよね。
どうしてデモンドを疑ったのか?
それは……国ひとつ丸々滅ぼしてしまうような大量の魔物が出現したなら、その魔物がどこかの土地に引っ込まないとおかしいだろ。
とすると、その先はこの国では疑わしいのは魔王の島か、デモンドだけなんだよね。
でも、デモンドを攻略しに行くならせめて剣の神器を手に入れてから……
そう思ってたんだ。
鋼鉄の剣では不安過ぎるよ。
……話を戻そう。
長々と話したけど。
「それで、剣を譲られて……取り込まれたってことなのか?」
親父に訊く。
親父は頷いた。悲しそうに。
「……俺に剣を譲った男の顔を今でも思い出すよ。……本当に嬉しそうだった」
親父の話に。
俺は親父が死人になってしまったことを悲しく思うと同時に。
その悪意にゾッとした。
……そいつ、どういう気持ちで親父を死人の世界に引き込んだんだろう?
人は、どうしようもない状況に追い込まれると、自分の不幸を拡大したくなるってことなんだろうか……?
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