第65話 この町が生まれた流れ

 親父がすでに死人である。

 それは俺にとって衝撃で、悲しい出来事のはずなんだけど。

 俺はその前に


 どうすれば良いんだ?

 使命が果たせない。


 ……薄情かもしれないけど。

 そんな思いが先に来た。


 長年不在で、もしかしたら死んでいるかもしれない。

 内心そう思っていた親父だったから、そう思ったのかもしれない。


 だから口走っていた。


「でも、その剣を貰わないと魔王の島に行けないんだ」


 詰んでるじゃないか。

 そう思いながら。




 無理でも俺はそう言わざるを得なかった。


 次善策の無い話なんだ。

 確かに一か八かで船で魔王の島に向かう方法はあるけどさ、それは無謀なんだよ。


 ……母さんの元夫の例がある?

 そんな1例だけ無事渡り終えた事例があるからという理由で、不可能ではないからなんて理由で挑戦できるか!


 周辺海域に凶悪な魔物が多過ぎて。

 ほぼ確実に沈むから不可能だと思われてるんだよ。

 論外。


 俺のそんな思いが籠った一言を、親父は


「……渡すのは無理なんだ。ここの住人からモノを受け取るという行為が悉く禁忌なんだよ」


 そんな、俺だって理解しているどうしようもないこの町のルールを口にしてくる。


 そもそも、何でこの町に剣があるんだ!?

 こんな、厄介極まりない死人の町に!


 そう思って、理不尽に憤るように


「どうしてここに神器があるんだよ!?」


 思わず口走ると


 親父は


「……元々、この町の前身は」


 教えてくれた。

 どういう経緯でここに剣が来ることになったのかを。


 ……どうも、この町の前身になったのがあの国の末裔たちの集まりだったそうだ。


 あの、天候神鏡トゥーラミラーを元々所持していた国。

 フラド帝国の末裔たちの。


 戦争に負けて、国が亡ぶときに王が腹いせに神器を海に投げ込むという暴挙を行った国の末裔だ。

 ジェシカさん曰く


 彼らはその罪を問われ、男性は悉く殺され、女性は全て奴隷にされた。


 ……らしい。


 この町の前身は、そんな女性たちから生まれた人間たちで構成されていたそうだ。

 罪人であるフラド帝国の女性たちは生涯奴隷の立場から逃げられなかったけど。

 その子は差別はされても、ギリギリ奴隷の立場から脱出出来た人間がそれなりに居て。

 そういう人間が、差別から逃げて来て、ここに町を作ったらしい。


 そして


 ある日、ここに剣を持って逃げて来た男が現れる。

 彼もまた、フラド帝国の末裔で。


 彼は剣を持っていた国の宝物庫に忍び込んで、剣を盗んだそうだ。

 曰く「神の啓示を受けたからやった。剣を手に入れろという」


 町の住人は驚きと、戸惑いと、あと恐れを感じた。

 差別から逃げるために作った町なのに、これは災いの種になりはしないか……?


 そう思ったとき


「奇跡が起きたんだそうだ」


 親父はそう淡々と、この町が成立するまでの流れの説明をしてくれた。

 俺は


「……それはどんな奇跡なんだよ?」


 訊ねた。

 重大ポイントだし


 すると


「……そのことについては、俺より詳しい人がいる」


 親父はそう言って、自分の話を打ち切ってしまった。

 そして「ついてこい」と言いつつ歩き出した。


「どこに行くんだよ?」


 慌てて追従しながら、俺は訊ねると

 親父は


「この町の町長に会いに行こう」


 そう、答えてくれた。

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