第5話 どうすればいいんだ!?

 謁見が終わって。

 王城を後にした。


 王城の正門前の跳ね橋を渡って外に出る。


 ……俺たち2人は、無言だった。


 そのまま、歩く。


 歩きに歩いて。


 冒険者が集まる酒場の前まで来たとき。


「……何で下賜……プレゼントが青銅の剣と、300フライアなんだよ!?」


 思わず、我慢してきた文句を吐き出してしまった。

 下賜と言いかけて止めたのは、他人に聞かれると不味いからだ。


 そう……


 国王陛下から下賜されたのは、青銅の剣1本と、皮袋に入った銀貨。

 銀貨は数えてみると、300フライア。


 300フライアは……


 慎ましく生活した場合の1カ月くらいの食費だな。

 ハッキリ言って多いとは言えん。


 大体、食べ物屋でパンと水、生野菜のサラダを注文した場合に払う料金がおよそ3フライア。

 昼飯に、パスタを注文して5フライア。

 そして晩に朝メニューからサラダを抜いて、パンと水を注文して2フライア。


 ……つまり、慎ましく生活すると1日の食費は10フライアで。

 それの30日分だから300フライア……


 こんなの、小遣い銭だろ。


 ありえん!


 ……これっていくらなんでも少なすぎるだろ。


「あとさ、これはどう見ても一山いくらの青銅の剣だよね?」


 そして俺は、下賜された青銅の剣を安っぽい鞘から抜いて構える。


 ……うん。


 こんなの、何の変哲もない鋳造で作られる量産品。

 長さ70センチくらいの、一応両刃の青銅製の幅広剣ブロードソード


 とりあえず武器が欲しいならという意味合いで売り買いされる、ただの青銅の剣じゃないか!


 こんなの200フライアも出せば買えるじゃん!

 国王陛下の下賜するアイテムじゃないぞ!


 ……謁見の間でこれが出て来たとき、マジで陛下の正気を疑った。

 無礼になるから黙ってたけどさ。


 わざわざ城に呼びつけて、与える物品がこれってさ……


 どういう意図があって、させてんのよ!?


 そんな感じで、俺が姉さん相手に猛っていると。


「……まあ、1回その剣で戦ってみましょうよ」


 そこの酒場で、適当な狩猟クエストでも受注して。

 そう言って、姉さんは酒場……所謂冒険者の酒場を指差す。


 あそこは何でも屋である冒険者という職業の人間が、酒と料理で疲れを癒したり、仕事の依頼を受けたりするために集まる店だから。

 俺たちでも受注可能な仕事が多分あるはず。


 取り敢えずそれを受けて、1回この剣で戦ってみる。

 もしかしたらすごい剣かもしれないじゃないか。



 で。



 取り敢えず、王都の近場の、山菜取りが出来る山に灰色熊グリズリーが現れ、近場の農家が困っているという依頼があったから受けたんだけど。


 現場に行って、俺たちの前に現れた灰色熊グリズリー数頭のうち1頭の頭に、力いっぱい下賜された剣を叩きつけたんだ。


 灰色熊グリズリー……。

 この世界を生み出して下さった、六大神の一柱「生命の神サタノス様」が創造した動物種。

 その動物種の中の1種だ。

 俺たち人間種と同じ、ね。


 一応、熊という種では最強の種らしいけど……

 灰色の毛皮と、2メートルを超える体長、そして鉤爪が長いのが特徴。


 まあ、とにかく。

 そんな生き物を、俺は取り敢えず斬ってみたんだよ。


 ……そしたら


「折れたーっ!?」


 陛下から賜った青銅の剣は、灰色熊グリズリーの頭を半ばまでカチ割った後、根元からポッキリ折れてしまったんだ!


 これだから安物は嫌なんだ!

 すぐ壊れる!

 というか……


 やっぱ安物の粗悪品じゃないか!


 国王陛下は何をお考えなんだ!?


 俺は剣を失ったので、仕方なく残った灰色熊グリズリーの眉間と喉に拳を叩き込んで頭蓋骨と喉笛を木っ端微塵に破壊して、仕留めながら。

 金もなく、武器もないのにこれからどうすれば良いんだろうか?


 そんなことを考えて、暗い気持ちになった。


 姉さんは


「大丈夫、なんとかなるわ」


 って、励ましてくれたけども。

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