第2章:神官少女ジェシカ

第6話 勇者パーティーを辞めよう!

「たった2人だと、大したことできないよね」


 倒した灰色熊グリズリーの手を、力任せに引きちぎりながら。


 ……倒した証拠を持ち帰らないと、報酬を貰えないし。

 依頼人のヒトも安心できないしね。


 これは必要な作業なんだけど……


 引きちぎると熊の骨や筋肉みたいな体組織が壊れて、見た目が汚くなるんだよね。

 ……文句言われたら嫌だな。


 もうちょっと、なんとかならなかったの? って。


 こんな汚い肉片を「仕事完了の証拠です」なんて言われても。

 世の中舐めてんの? そんな感じで。


「うん、確かに2人は不安かもしれないわね……でも、仲間は雇えないわよ?」


 そんなことを、魔法で地面に穴を掘りながら姉さんが言った。


 姉さんの脳内で描いた術式に従い、地面に大きな穴がひとりでに掘られていく。

 穴を掘るのに障害になる土が勝手に飛び出して、穴の左右に積み上がっていく。

 そういう感じだ。


 姉さんの使用する魔術師系の魔法は、こういう感じで「人間が専門知識が無くても道具を使えば実現できる単純作業」や「自然現象」を道具無しで実現、もしくは再現する能力なんだ。


 なので、使い手の得手不得手はあるわけだけど、こういう風に……


 念力で地面を掘ったり。


 炎を呼び出したり。


 吹雪の嵐を発生させたり。


 雷を呼び起こしたり。


 そういうことが出来る。

 出来ないのは……


 傷を治すとか。


 病気を治すとか。


 毒を消すとか。


 そういう、現象として無かったり、やり方が想像できないこと。


 ……姉さんは、多分炎の召喚と、吹雪の召喚、念動力系統が得意だ。

 よく使うから。


 まぁ、他が苦手だって話は姉さんの口から聞いたこと無いけどさ。


 で。

 穴を掘り終え、姉さんが言う。


「……さあ、この穴に熊の死骸を埋めなさい。放置すると腐敗して面倒になるから」


 なので俺は言われた通りに、残った熊の死骸を全てそこに投げ込んだ。




「熊を数頭倒して、貰った報酬が1500フライア……」


「多い方だと思うわよ」


 冒険者の酒場の主人に、仕事の完了を報告すると。

 依頼人から預かっていた報酬を渡してくれた。


 それが、1500フライア。


 陛下から下賜されたお金よりは全然高いけど……


 で。

 俺はさっき、報酬を受け取る前に。

 武器屋を覗いて、一番出来がいい武器である「鋼鉄の剣」

 これの値段を確認したんだけどさぁ


 ……1200フライア。


 うーん……今回の稼ぎのほとんどが吹っ飛ぶね。

 決断が要るわけだよ。


 これを買ってしまうと、俺と姉さんは慎ましく生活しても1カ月で得たお金は無くなって素寒貧スカンピンになる。

 それは流石に躊躇するよ。


 そうなったら後は、俺たちは元々持ってた財産に手をつけないといけないわけだし。

 それは絶対に嫌だ。


 元々のお金は、困ったときに使うお金なんだから。


「……次はどうしよう? 姉さん」


 俺は次に選ぶべき道が分からなくなったので、姉さんに訊ねた。


 すると姉さんは顎に手を当ててしばらく考えて

 こんなことを言ったんだ。


「……私たちを売り込みましょうか。他のパーティに」


 ……えー。

 あのさ


「俺たち、勇者の一行だよね?」


「うん、そうね」


 姉さんは真顔だ。

 姉さんは分かってる……


 その上で


「俺たちが売り込むの? 俺たちが募集して受け入れるんじゃなくて?」


 そう訊くと


「しちゃいけないって誰か決めたの?」


 ……即座にこの返し。

 魔術師の思考ってこういうものなのか。

 むしろ、こうだから師匠無しで魔術師の魔法を習得できたのかもしれない……


 うん。


 そうだね


「アリかも」


 ……これが問題だというならさ。

 陛下の御下賜金、もっとあるべきじゃないの?


 大体、他のパーティーに入ったからといって、一度入れば抜けられないわけじゃないんだし。

 良いよね別に。

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