第7話 妙な求人票

 勇者パーティーを1度廃業し、他のパーティーに自分たちを売り込んでいくために。

 俺たちは1回酒場を出て、武器屋に行き。

 大金を支払って、鋼鉄の剣を買って来た。

 思い切ったんだ。


 ……自分たちの能力を売り込むんだもんな。

 手ぶらはありえないでしょ。


 俺は、前の仕事の報酬のほとんど全部を注ぎ込んで購入した鋼鉄の剣を見る。


 ……美しい剣だ。

 前の報酬のほとんどを使ったから、余計そう思える。


 茶色の革を巻き付けた握りグリップ

 その上に、左右に張り出したガード

 そして銀色のピカピカの両刃の剣身ブレイド


 それで長さは1メートルくらい。


 ……剣身に顔が映ってるよ。


 俺、決して不細工では無いんだけどな。

 カッコイイ方が売り込みで採用されやすそうな気がする。

 そこは不利かな?


 髪の毛の色は茶色で、珍しくも無い。

 金や銀ならハクがつくのに。


 別にカッコよくないし、強そうな顔でも無いんだよな。

 ……姉さんは俺の目が丸いのが愛嬌がある、可愛いとかいうけどさ。


 誉め言葉では無いよなそれ。


 ……身長だって、普通の域出ないしさ。


「アルフ、行くわよ」


 そんな風に、鋼鉄の剣の剣身に映った自分の顔をしげしげ見て。

 大雑把に切って整えている自分の髪型を気にして考えていたら。

 姉さんに一言言われた。


 おっと。


 俺は鋼鉄の剣を腰の鞘に納めた。


 そうして……俺たちは酒場に戻って来た。

 酒場のドアを潜って、掲示板に歩いて行く。


 そこには依頼がいっぱい貼られているけど……


 パーティーメンバー募集の、求人票も貼ってるんだよね。

 ざっと見たところ、いくつかあるみたいだ。


 だから俺は振り返り


「姉さん、どれがいいかな?」


 訊ねると


「……神官を探しなさい。神官が求人者の募集よ」


 即座に返答。


 神官……?


 あるかなぁ……?


 まぁ、何でかは分かるけどさ。


 神官なら、ならず者パーティーである可能性相当低いからね。


 神官なら、バックに六大神を崇める教会が居るから。

 でなきゃ神官を名乗ることはできないし。

 もし詐称すると、涜神行為で晒し首だ。


 けどさ……


 普通に考えて、引っ張りだこでしょ。

 神官しか神官系の魔法を使用できないんだし。


 神官系の魔法は、魔術師系の魔法ではカバーできない「治療」や「防御」を実現する魔法なんだ。

 そんな状態だから、普通に考えて黙っていても人が来る……はず。


 もし神官が募集を掛けたら、即売れそう。

 だから残ってるわけが……


 って。


『私と一緒に神の正義のために戦ってくださる方を募集します』


 ……こんな求人票が……


 求人者名・ジェシカ。


 なんか記述がものすごく神官っぽい。

 そして本人の職業欄に「神官」とある。


 ……マジで?

 都合良すぎない?


 募集要項には、その他の条件は書いていなかった。


「決まりね。早速面接を申し込みに行きましょう」


 すると、後ろで見ていた姉さんが、求人票を読んだのかそんなことを


 俺は


「いやいやいや、いくらなんでも変じゃない? こんな都合良い求人がいきなり見つかるなんて」


 そう、思うところを口にしたんだけど。

 姉さんは


「募集を掛けたのが、ついさっきなのかもしれないでしょ」


 ……取り合ってくれなかった。


 確かにその可能性あるけどさぁ……


 どーなのかなぁ……?



 そして酒場のマスターに剥がした求人票を持って行って。

 面接の申し込みに行ったんだが。


 マスターは「あそこに黒髪ロング、サラサラストレートヘアの綺麗な神官少女がいるだろ」って言って、酒場のテーブルのひとつを指差した。

 言われるままに視線を向けると、確かに。


 一目で育ちが良いのが良く分かる、清楚系の正統派黒髪美少女が、1人でテーブル席に座って本を読んでいた。

 全体的な見た目は真面目系。穢れを知らぬ乙女って感じ。


 特にヤバそうには見えない。

 ……よし


 何か不安だけど……覚悟を決めるか。


 だから俺は


「行こう。姉さん」


 呼びかけて


「ええ。行きましょうか」


 そう返して貰った後、足を踏み出した。


 ……当たって砕けろだ!

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