第8話 最初の質問は

「すみませーん」


 俺は目的のテーブルに近づき、この神官の典型的衣装の白ローブに身を包んだ少女……

 酒場のマスターに教えられた問題の求人者の、神官少女ジェシカに話し掛けた。

 確かこの下に、鎖帷子を着込むのが神官あるあるなのだけど。


 この子もそうなのかな?


 見た目、ほっそりしてるんだけど。

 貧弱じゃやっぱ着れないよね? 鎖帷子。

 もしそうなら、こう見えて鍛えてるんだろうか?


 そんな余計なことを考えている俺に


「なんでしょうか? ひょっとして面接を受けにいらした方ですか?」


 俺に向かってニッコリとしながら彼女。

 即座にパタンと読んでいた本を閉じてくれた。


 俺はそんな彼女に


「はい。お願いできますか?」


 そう、なるべく警戒させないように……友好的に……


 ……あ!


「姉さん! こっちこっち!」


 ハタと気づいた俺は、慌ててセリス姉さんを呼ぶ。


 普通に考えてさ、見たところ女の子1人の求人者。


 ……男1人は雇わんわ。

 襲われたら困るじゃん。


 それぐらい俺でも分かる。

 彼女いない歴イコール年齢の俺でも。


 で、俺の呼びかけに応えて慌てて駆け付けて来た姉さんを示しながら。


「こっち、姉のセリスです。俺とセットでの雇用を希望しているんですけど、良いですか?」


 愛想笑いを浮かべてそう一言。


 ……どうかな?

 ただでさえ未経験。


 家に引きこもって、修行ばっかりしてた俺たちだし。


 未経験者お呼びで無いって言われるかもしれないけどさ。


 取り敢えず、受験くらいは挑戦してもいいだろ。


「あ、申し遅れました。俺はアルフレッドです。どうぞよろしく」


 そして名乗って、深々と頭を下げた。




「まあ、どうぞ掛けて下さい」


 椅子を勧められたので、俺たち2人は向かいの席に並んで腰掛けた。


 さあ、面接。

 どんな質問が来るんだ……?


「ああ、そうそう。今更ですけど名乗っておきますね。私はジェシカ。一応、六大神教の神官をしております」


 俺たちをこれから面接するジェシカさんは、ニコニコ笑顔で自己紹介してくれた。


 六大神教というのは、この世界を誕生させた六柱の神々を信仰する宗教で。

 世界を誕生させる際にお隠れになった神々が、最後の力を振り絞って、この世に残したという十の願い……それを俺たち人間がないがしろにしないよう生きることが大事だと。


 そう、信者に説き続けている宗教なんだよ。


 俺たちはジェシカさんの自己紹介に。


「よろしく」


「よろしくお願いしますね」


 頷きながらそう返す。


 そして緊張しながら。

 最初の質問を待った。

 全く予想が出来なかったから。


 そうして。

 最初に来た質問は……


「あなた方は六大神の遺された十の願いを全てご存じですか?」


 こういうものだった。

 絶句する。


 ……えっと。

 冒険者としての経験の有無、所有している技能の確認じゃなくて……


 最初の質問がそれなの?


 ……マジで?

 常識だと思うけど……

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