第9話 十の願いは

「十の願い……知ってるに決まってるじゃないですか」


 俺はジェシカさんにそう答える。


 ジェシカさんはニコニコしながら


「言ってみてください」


 ……なんだか、圧を感じる。


 顔は綺麗なんだけど……威圧感を感じた。

 本気で答えろよ? 的な……


 でもまあ、言えと言うなら……


 俺は、昔の記憶を手繰り寄せながら、誰でも教会でお坊さんに教えられる言葉を暗唱した。


「ひとつ、我らを敬え」


 神々への敬意を忘れるなってことだ。


「ふたつ、土地を汚すな」


 道にゴミを捨てるなってことだ。


「みっつ、他者を蔑むな」


 他人を侮辱したり、面子を潰すなということ。


「よっつ、殺すな」


 殺人。当然そこに繋がる暴行も禁止だ。


「いつつ、淫らな振る舞いは慎め」


 不倫とか、乱交のような道ならない性行為はするなってこと。


「むっつ、奪うな」


 他人の財産に手を出すなということで。


「ななつ、偽るな」


 嘘を言ったり、騙したりするな。


 ……ここで、ちょっと出て来なくなり。

 少し記憶の掘り返しが起きて。


「……やっつ、契約に従え」


 まあ、約束を守れってことだな。


「ここのつ、身の程を知れ」


 思い上がって傲慢になるな、ってこと。


「とお、死者は葬れ」


 これは、死体遺棄や死体損壊をするなってことらしい。


 何とか10個、言い終えた。


 ……計10個の神々からの願い。


 姉さん曰く、これを根拠にして、法律が出来てるらしい。

 例えば6個目の「奪うな」から、窃盗罪が設定されてるんだと。

 六大神がそう言ってるんだから、疑う余地も無く他者から所有物を奪う行為は罪。

 そういう立て付けなんだな。


 そう、十の願いを言い終えた俺に。

 ジェシカさんは、少し残念そうな顔をしてため息をついた。


 ……え?


 何か俺、マズった?


 戸惑い。

 俺だって、週に1回の休息日には、教会でお坊さんの話を聞きに行ってるから。

 間違ってないはずなのに。


 そう思って固まる俺に、横から姉さんが


「……順番が違うのよ。アルフ、あなたは思い出した順番で喋ってるわよね」


 そんな指摘をしてくる。


 順番……?


 姉さんは少し、しょうがないな、という顔をして


「前に言ったわよね? 法律の条文は、大切なことほど最初に書くって」


 そういえば、前に法律について教えてもらったときにそんなことを言われた気がする。


 それってまさか……


 そこで俺は自分のなにがいけなかったのかが予想できて。

 そしてそれは


「その書き方は、法律の根拠になってる10の願いに関しても同じなのよ」


 ……思った通りだった。


 だから、と後を続けて姉さんは


「正しくは……信仰心、不殺、淫行、窃盗、虚偽、侮辱、契約、葬儀、謙虚、汚染よ」


 言い直してくれた。

 すると


「……すばらしいですわ!」


 ジェシカさんが満面の笑みを浮かべた。




「こんな基本的なことも分からない人が増えていることが嘆かわしいと考えていたのです」


 ジェシカさんは俺たちに心底嬉しそうにくっちゃべる。

 身振り手振りを交えつつ、自分がいかに嬉しいかを主張した。


 ……こういうところが面倒というか、厄介というか。

 そのせいで、神官がパーティーメンバー募集を掛けているのに応募が全然来てなかったのかなぁ?


 なんだか、納得できてしまった気がした。

 そんな俺を前にしてジェシカさんは俺たちに


「ワタクシ、感激しました! 是非お迎えしたいです!」


 そう、面接の合格を出してくれたんだ。


 こうして……


 何か知らんけど、俺たちはジェシカさんにメチャクチャ気に入られて。

 面接を合格うかってしまったんだ。


 ……果たしてこれが幸運だったのか、不運だったのか……


 ラッキーだったら、良いよな……

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