第10話 狂信者……
ジェシカさんに雇われて。
俺たちの日常に、リズムが生まれた。
平日は主にゴブリン退治。
後コボルトも対象だ。
ゴブリンは緑色の体色の、子供ぐらいの背丈の醜い妖魔。
知能は低いが残虐で卑劣。
そして低いとは言っても、武器や簡単な罠を使用する程度の知性はある。
まともに野生動物を狩って糧を得たりせず、主に人間からの略奪で生きる糧を得ている魔物だ。
コボルトもまあ、魔物としての生態は同様。
犬の顔を持つ灰色の獣人だ。
ただこっちは犬の要素が入っているためか、ゴブリンほど卑劣ではない。
その分頭が良くないけど。
多分、頭が悪いから結果的にゴブリンよりは卑劣に見えないだけなんだろうな。
こいつらは武器はほぼ使わず、使っても棍棒が多い。
強さで行くとゴブリンより弱く、たまにゴブリンの奴隷になっている。
……以上。
ゴブリンとコボルトはそんな魔物だ。
だからゴブリン&コボルト退治は……
主に駆け出し冒険者が受ける仕事なんだよな。
だけど
「それは別に初心者のために残しておけって意味じゃ無いんですね」
……これはジェシカさんの言葉。
それぐらい、ゴブリンやコボルトが勝手に繁殖する事例が多いんだってことなんだそうだ。
あまりにも多いので、難易度も低いのもあるけど、件数自体も多いから。
そこで小銭を稼ぎつつ、腕を磨けという話なんだな。
それこそ、依頼が尽きることが無いレベルで仕事がある。
で、依頼にならない依頼もあるんよな。
例えば人の寄り付かない砦や洞窟の中とか。
「せいっ」
山奥の砦の中で。
俺は鋼鉄の剣を振るって、ゴブリンの首を刎ねた。
大枚
流石は鋼鉄の剣。
剣の重さだけで、ただ斬り捨てるだけなら何も問題は無いな。
これが粗悪品の青銅の剣だったら、折れてしまうかもしれないことに気を配らないといけないからね。
ちょっと熊のドタマを力いっぱいカチ割っただけで折れるなんて。
全く、あり得ん強度だよ。
あんな剣、2度と使いたくない。
……こんな感じで、平日休みなく働いてる。
うち、報酬の発生するゴブリン、コボルト退治は数件だ。
……人が来なかったの多分、いや絶対これが原因だなと思う。
ブラックなのよ。
ほぼ、タダ働き。
……やんわりとさ
「依頼の出ているゴブリンコボルト退治にしませんか?」
そう言ったんだけど。
「……サタノス様がお創りになった生物以外の生き物の生存を許すのですか?」
ニコニコしながら却下されるんだよな。
その笑顔は逆らったら何をされるか分からんというか。
そんなオーラを放ってるんだ。
前に彼女、こんなことを言ってたな。
「創世の1週間、6番目の日にサタノス様が献身し世界に溶けて動植物を生み出されたとき。そのときに生まれた生き物にしかこの世に存在する資格は無いんですよ」
創世神話の一節の話。
六柱の神々が一柱ずつ世界に溶けて、世界や天候、現象やその法則などを生み出し、全て揃った6番目の日に。
サタノス様が献身し、世界に溶けて世界に動植物が満ちた。
ジェシカさんは、そのときに生まれた生き物しか生きていてはいけないと言ってんだな。
つまり、魔物は魔物であるだけで死ぬべきだというのが彼女の主張。
……俺もさ、魔物は倒すべしとは思うけど。
そこまで強い言葉は使えない。
うーん……ちょっと怖い。
正直。
明日は休息日だから休みだけど。
ジェシカさんはどうするのかなぁ?
なんてことを
「ヒャハハハハハハ! 汚らしいゴブリンどもがッ! お前らは生存権がこの世にないッ! 死ぬがいいッ!」
逃げ惑うゴブリンたちを追いかけ回し、手にしたゴツく重そうな
そんなことを嬉々として続けているジェシカさん。
彼女を見ながらふと思った。
……あ。
こういうのを狂信者って言うのか。
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