第83話 ケジメの付け方
俺たちはだいぶ相談し。
そして
「ワタクシが参ります」
ジェシカさんが挑むことになったんだ。
ジェシカさんはダンタリオンに向かい合うように、床に座る。
正座だ。
ローブの裾が乱れないように、上品に座った。
そんなジェシカさんに
「おお。神官のお嬢ちゃんがワシに挑むか。賢明じゃの……お前さんは人体欠損を治せるんじゃな?」
ダンタリオンは楽しそうに言う。
しかしジェシカさんは
「治せませんわ」
しれっと。
何でもないようにそう答えた。
ダンタリオンはその言葉が意外だったようで
「ほぉ? じゃあなんでオヌシが?」
「世界の絵、私の記憶、刻みつけ」
……不思議そうな顔をするダンタリオン。
ジェシカさんは不敵な笑みを浮かべ
「単に勝率が一番高いのがワタクシであるという結論が出ただけですわ」
そこで大きな声でこう宣言する。
「さあ、はじめましょうか! ワタクシたちは逃げも隠れも致しませんわ!」
大きく両腕を広げながら。
ゲームが始まった。
最初の数枚は普通に捲られる。
……いきなり揃う可能性はあるから、ドキドキした。
「ワシはカードの位置を忘れたりはせんぞい」
「奇遇ですね。ワタクシもですわ」
互いに捲っていく。
見守る側は本当に心臓が壊れそうなほどにドキドキする……。
すると
「……おや。2枚目の手指欠損が出たぞい」
幸い、と言って良いのだろうか。
ダンタリオンの手番で、手指欠損2枚目が出た。
次はジェシカさんの番。
そこで
「さあ、オヌシ。……オヌシの記憶が本当に正しいのか、今一度確認することを勧めるぞい。……もし間違いがあれば、仲間の指が……」
ダンタリオンはプレッシャーを掛けてくる。
自分の記憶が絶対かどうか、疑念を抱かせるために。
だけど
ジェシカさんは躊躇わずにカードを捲り。
見事、2枚のカードを揃えた。
その瞬間。
ダンタリオンの左手の小指が消失し、緑色の血液を噴き出したんだ。
ダンタリオンは呻く。
「……やるではないか」
「これで終わりませんよ」
続けて捲るジェシカさん。
札合わせのルールでは、得点した場合はもう2枚を捲れるのだ。
すると、運よく「歯欠損」「足指欠損」「舌欠損」が決まった。
書かれている部位が欠損し、ダメージを負うダンタリオン。
「ぐふう……」
このゲームはカードが減るほど連続攻撃が決まる可能性が高まる。
そのため、相当数ジェシカさんが得点したんだけど……
「……!」
爪欠損。
出てないカードが出た。
次はダンタリオンの手番。
ダンタリオンは残った指で問題なくカードを捲り……
「おお……」
笑みを浮かべた。
爪欠損を引いたからだ。
「まあ、ダメージとしては大したことは無いが、された側は平静ではおれんかもしれんなぁ」
そう、ニヤニヤ笑いながらダンタリオン。
ジェシカさんは無言だった。
俺たちも無言だった。
決めていたことがあったからだ。
それは……
ダンタリオンはカードを揃える。
爪欠損。
「うっ」
姉さんが顔を顰める。
見ると右手の親指の爪が剥げていた。
やられた……!
だけどその瞬間。
バリッ!
……ダンタリオンは驚愕する。
それは……
「さあ、続いて捲りなさいな」
ボタボタと爪の剥げた右手の親指から血を流しつつ。
たった今、自分の歯で無理矢理剥がした右手親指の爪を、ペッと口から吐き出しながら。
ジェシカさんはダンタリオンに続きを促した。
……あのとき。
誰が挑むのかを話し合っていたとき。
ジェシカさんは言ったんだ。
「ワタクシは人体欠損を治療できませんが、王都に戻れば高位神官の治療を有料で受けられますので回復は可能です」
そう、申し訳なさそうに。
だけど
「ですから……」
そこで言葉を切って
こう、続けたんだ。
「ワタクシのミスでどなたかが傷ついた場合、ワタクシは同じ部位を切り取ります。それをケジメとさせてください」
……それを本当にやるなんて。
正直、俺は恐怖に似たものを覚えていた。
……神官って、みんなこうなのか?
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