第68話 惨劇

「……差別を受け続けていた人間が、自分たちこそ正義の体現者だと思う……そういうことはよくあることよ」


 姉さんが町長の言葉にそう返した。

 そういうものなのかもしれないな。


 自分たちは苦しい目に遭って来たのだから、自分たちこそ正義が分かっている。

 いや、自分たちは絶対正義だ。

 自分たちが悪であるはずがない……。


 そう思ってしまう気持ち。


 なんとなく、分かる。


 そうでないと、自分たちが受けて来たことが理不尽であるということに、陰りが出るもんな。


「……そうですね」


 それを受けての町長の声は、なんだか寂しさがあった。


「我々は2つ返事で加護を受け入れました」


 そして土地の豊かさを高めていただき、豊作の連続。

 狩猟に出れば獲物が向こうから来る。

 井戸の水は決して枯れず、清浄な水を吐き出し続ける……。


 ……得られるものを最大限得られる加護……


 そして国から見つかることもなく、国民の義務として税金を奪われることも無い。

 自給自足のこの世の楽園……


 そんな、自分たちにとって最高の時間が、ずっと続くと思っていました。


 ……何だか懐かしそうな町長の話。

 だけど


「ある日、サンヴィリア様が仰ったんです」


 お前たちには失望した。

 よくも我に言えたな。


 十の願いを守り抜ける、だなどと。


 ……サンヴィリア様がそう仰ったので


「そんなはずは!? 私たちは願いを遵守しております!」


 すぐさまそう返しました。


 けれど……


 そこから先の町長の話は……

 悲惨、の一言だった。




 神・サンヴィリアは指摘した。


 お前とお前とお前、不倫をしたな。

 神の前で誓った誓いを破ったな。


 何故、それを懺悔しない?


 我は失望した。


 もう加護はない。

 さよならだ。


 あとは勝手に生きていけ。


 神の指摘。

 そして途絶える神の声。


 そうなったとき。


 数瞬の間を置いて


「お前たちのせいだ!」


 不倫を指摘された3人の男女が町の人々に糾弾された。


 3人の男女は震え上がり


「この女どもが俺を誘惑したんです!」


「嘘です! 私は無理矢理!」


「誤解です! 私はお酒を飲まされて……!」


 土下座し。各々言い訳を開始。

 だけど


 町の人々はそれを許さず。


 彼ら3人を速やかに縛り首にした。


 木の枝に吊り下げられる3人の遺体。


 それを誇らしげに眺めて、残った町の人々は


「サンヴィリア様! 罪人を我々で裁きました! どうかお怒りをお納めください!」


 口々にそう叫んだ。

 しかし……


 願いは神に届かなかった。


 何故だ……?


「まだ罪人が居るからだ!」


 誰かが言った。


「そいつが邪魔なんだ!」


「悪を裁こう!」


「オマエ! 俺との約束を忘れたことがあったよな!?」


 そして、殺し合いが始まった。

 互いに相手を罪人だと罵り、裁こうとする。


 町長は「皆、落ち着け!」と叫んだが


「うるさい老いぼれ!」


 ……誰かに思い切り頭を殴られ、意識を失い……


 いやそのとき、町長はおそらく1度死んだ。


 そして


 次に気が付いたとき。

 彼らは全員生き返っていた。


 ……あれは夢だったのか?


 町長は頭を振りながら起き上がったが。


 ……声が聞こえた。




 呆れ果てたぞ。

 そんなに我の加護が欲しいなら、くれてやる。

 お前たちはこれから永遠に生きられる。

 食糧も飲み水も途絶えることはない。


 ……ただし。

 お前たちはこの町から一歩も出られない。

 そして死ぬことも許さぬ。

 それが我を裏切っておきながら、なお加護を求めたことに対する代償だ!

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