第67話 理想社会の話

 町長の話は続いている。


「サンヴィリア様は、自分はお仲間が全て世界を創るために世界に溶けたのに、1柱だけこの世に残され、仲間の創った世界を見守ることを自らの使命にした神様だと仰いました」


 六大神の同期の神様……

 言うなればそういうことか。


「十の願いを守る……?」


 ジェシカさんの呟きのような言葉。


 町長は頷き。


「……六大神教の開祖シクスの正体は、サンヴィリア様が人間に化身した姿だとも仰いました」


 え?

 開祖シクスが?


 ……まあ、内心ツッコミは入るよな、と思わないでも無かったんだけど。

 十の願いは六大神がこの世界に溶けるときに残したとされているのに。

 構造上現場にいようはずがない人間に、何故それが分かるんだ、と。


 でもこんなことを言ったらお坊さんにボコ殴りにされるので、言わなかったが。


 伝説上では、人間が好き勝手に生きているところに、突如フラリと現れて


 この世界は六柱の神の献身で創られたこと。

 そして神々が十の願いを人間に残したこと。


 これを教え、伝え。

 どうしようもなかった当時の人間たちを教え導き、今の世の礎を作ったとされている。

 それが六大神教の開祖シクスだ。

 聖者とも呼ばれている。


 シクスは十の願いと六大神の存在を伝えて、六大神教を作り上げた後。

 弟子の一人に教皇の座を譲り、ふらりと姿を消した。


 そういう伝説が残ってるけど。


 ……辻褄が合うな。

 人間じゃ無いのであれば、いつまでも居る訳にはいかないもの。

 望みのものが出来たら、後を任せて消えるでしょ、そりゃ。


「聖者様の正体が……」


 ジェシカさんは言葉を継げなくなっていた。

 ショックが大きいのか。


 まぁ、気持ちは分かる。

 なんというか、聞くのに勇気が要るネタバラシ。

 そんな感じじゃ無いか? この話は。


 自分たちの生きている世の中の根幹に、そんな名前も知らない神様の存在があったなんて。


「で、十の願いが何なんだ?」


 そこにリリスさんが先を促す。

 俺とジェシカさんが聞いたことも無い神様の話でショックを受けるなか、リリスさんはいち早く復帰し、自分を取り戻したみたいだ。


「そんなもの、我々の社会でも守ってるだろう」


 十の願いは我々の社会でも「法」という形で息づいているだろ。

 リリスさんはそう、言ったんだけど。


 町長は首を左右に振った。


 ……は?


 最初訳が分からなかったんだ。

 そしてその真意を知ったとき、俺は思わず言っていた。


「そんなの無理に決まってるだろ!」




 町長が言うには……

 七柱目の神・サンヴィリアは。


 十の願いを全ての住人が自発的に守る社会を要求してきたんだ。

 破ってしまった場合に決して隠さず、自らを罰する。

 そういう社会をだ。


 法なんて定めても、守ってることにはならない。

 何故って、そこに「罰則」という名の強制があるからだ。

 それに法律の執行には、違反者の申し開きが付き物。

 神様はそれが不満だったらしい。


 神の願いを破っておきながら、何て態度だ、と。


 ……でも、そんなの無茶だろ。

 それぐらい俺でも分かる。

 人間は完璧には生きられないんだ。

 間違うことはあるんだよ。

 そして間違ったときに、必ず自ら反省し、自らを罰する奴ばかりな世の中。

 そんな社会に実現性が無いことくらい、誰でも分かるだろ。


 町長はそんな俺の反応を見ながら、続ける。


「自分の果たせなかった理想を、ここの土地で叶えてくれるなら永遠の加護を与えてやろう、そう仰ったんです」


 町長の言葉には、深い後悔と自責の念があった。


「……愚かなことに当時の私たちは、神様の求めていることの困難さに気づいてなかったんですよ」


 こうも思ったそうだ。

 差別を受け続けた自分たちならやれる。


 とも。

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