第2話 魔王を討伐しろと言われても

 俺は16才の誕生日を迎えたら、国王陛下の謁見の後、魔王討伐の使命を与えられることになっていた。


 そう。

 この世界には魔王というものが存在している。

 その居場所は世界の果てにあるという孤島。

 そこにあるという魔王城。


 海の魔物たちに守られ、船で近づくことが不可能な鉄壁の城だ。

 そんな場所に居るらしい。


 何時から居るのかは良く分からない。

 少なくとも、この国……アトペント王国がこの大陸中の国を併合して建国宣言する前にすでに在ったそうだ。


 俺はそんな存在の討伐を命じられている。


 ……大変な役割じゃないか。


 ちょっと聞くとまあ、そう思うかもしれないけどさ。

 正直、俺はほとんど気負って無いんだよな。


 ……何故って


 俺の知る限り、この国が建国後今まで300年以上。

 魔王が人間の世界に攻めて来たという記録が無いからなんだよ。


 そしてさ


 俺が16才になるまで何で待つの?

 本当に魔王が危ない存在なんだったら。


 いや、ひょっとしたら16才の俺は、それまでの俺と違う力を得るのかもしれないけど

 俺が16才じゃないから、俺が魔王と戦えないから起きる不都合。

 そんなもんを周囲で一切、全然聞かないんだよな。


 例えばどこかの街が滅んだとか。

 どこの土地が消滅したとか。

 どこが魔王の支配下に入ったとか。


 そんなのは全く聞いてない。

 魔王はずっと沈黙を守っている。


 だから全く危機意識が無いんだわ。

 実際、周りの皆は誰も魔王を恐れてないし。


 俺が16才になったら魔王討伐に旅立つ「勇者」だって知ってるはずなのに


 頑張って下さい!


 期待してます!


 あなたが最後の希望です!


 旅立つ前にあなたの赤ちゃん孕ませてください!


 ……なんて言われたことは1回も無い。

 いや、言われたいわけじゃないんだけどさ。

 マジで。


 そんな状況だから、やる気あるのかとか、不真面目過ぎるとか。

 そんなお説教をされると「だったらもっと何かあるだろ」って思ってしまう。

 ……この俺の考え、非難されないと思うんだけど。


 あーあ。

 俺が「勇者アルティア」の息子じゃなければな。


 俺の父親は勇者と呼ばれるような男で。

 すごく強かったらしい。

 詳しくは知らんけど。


 で、俺が7才のときに姉さんと俺を置いて家を出て行って。

 それっきり帰ってきてない。


 ……勝手だ。

 俺に厄介な血筋だけ残しておいて、自分は消えるなんて。


 ……そんなことを


 ベッドの上で脳内で愚痴っていたら。


「すぐ準備なさい!」


 姉さんの一喝が飛んできた。

 そして続けて理由が述べられる。


「謁見は10時からのご予定らしいけど、王城入りは9時。そしてお城への入り待ち行列は6時には出来はじめるから、今から準備しなきゃダメでしょ!」


 ……なんでも王城に入るために行列作ってる人々がいるから、なるべく先頭集団に入ろうということらしい。

 どうせ優先して貰えるけど、他の人が真面目に並んでるのに、自分だけ勇者だからといって悠々ごぼう抜き丸無視状態で王城に入るのはあまりに不健全だからだとか。


 姉さんとしては王城までの移動時間を考えて、出来れば4時起きにしたかったそうだけど。

 それはさすがに酷いと思ったらしく。

 妥協案で、5時。


 ……クソ真面目。


 でもまあ、受け入れたことだし。

 グチグチ言うのは男らしく無いから


「分かった。すぐ着替える」


 ……名残惜しいけど。

 俺は自分のベッドから抜け出した。

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