第27話 トロピカルな部

「私たちはきっと、人魚たちにはゴキブリか便所コオロギのように見えているんでしょうね。だったら遭遇したら即逃げるのもやむなしよ」


 そう一言発して。


 続けてこう言った。


「……なのにどうして、水棲の魔女なんて名前が世に伝わっているのかしらね?」


 ……言われてみれば。


 遭遇後すぐ逃げられるのに、何でそんな偉大な魔女の名前が有名なんだよ。

 なりようがないよな。


 確かに変だ。


「……何かコンタクトを取る方法があるってことですか?」


 ジェシカさんの言葉。

 それに姉さんは頷いて


「でないとあり得ないと思うわ」


 ……どんな方法なんだろうか?




 なので俺たちは、水棲の魔女に会うという言い方を止めて。

 水棲の魔女に訊きたいことがある場合はどうすればいい?


 こういう言い方に変えて聞き込みをした。


 するとだ


「そういうことなら、トロピカル部に行くんだな」


 ……わりとすぐに、こういう情報が舞い込んで来た。


 トロピカル部……




 なのでトロピカル部にやってきた。


 言われた場所に来てみると、大きく


 トロピカル部


 って書かれた木の看板が掛けられた建物がある。

 木造の建物で、ガラスくらいしかその他の建材が無い。


「ここの人が人魚たちとコンタクトを取れるんですよね?」


 ジェシカさんが、本人的に納得が行っていない声音でそう一言。


 ……色々訊いてみたんだけど、誰も何でコンタクトが取れるのかを教えてくれなかったんだよね……


 皆さ、そこを訊くと言葉を濁すんだよ。

 目を逸らすというか。


 ……何で?


 そういう理由で、ジェシカさんがあんな感じなんだろうな。

 他人に意見として主張する際、自信をもって主張できないというか。


 根拠が「皆がそう言うから」じゃなぁ。

 頭悪く思えるしな。そんなの。


 ……でもま、会ってみるしかないよな。


 事前に予約をしろとか言われるかもしれないけど、そのときは改めて予約を入れればいい。

 なのでわりと気安く


「すみません! お願いしたいことがあります!」


 トロピカル部の扉をノックした。


 しつこくならないように、迷惑にならないように注意を払いながら。


 すると扉の奥からドスドスと重い音が近づいてきて。


 ガララ、と扉が開いた。

 引き戸だったので、横に。


「……何の用だよぅ……?」


 そこに姿を現した人影。


 それは……


 明らかに体重が3桁に到達し、まるで筋肉がついておらず、太りすぎて顎と首が消失している


 鼻が低すぎてほぼ穴で、不摂生のせいか歯が何本も欠けていて、そのくせ眼だけは大きくてギョロギョロしている


 ……そして、禿げてて。

 そんな、人魚のような容姿の短パンと白ランニングの男性で。

 見た瞬間、理解した。


 ああ、そっか。

 多分こういう人が、人魚とコンタクトを取ってるんだな……。

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