第79話 襲撃してくる魔物たち

『私はデモンドに望んで侵入致します。私は全ての救助を拒否致します。

 そして私自身は、断じて他人の救助隊では無いと神に誓って宣言致します』


 この念書を5人分、書いて。


 出発。

 デモンドの門を潜ったとき。

 番兵2名は、こいつらにはもう2度と会わないだろうなという、諦めと無力感が混じった視線を向けて来たよ。


 ……デモンドの門番って、辛い仕事なんだな。

 たまにあるんだろうよ。


 危険だ危険だって言ってるのに。

 功名心か好奇心か知らんけど。


 わざわざ、魔の土地に足を踏み入れる馬鹿なやつ。

 デモンドの門番は、そういう手合いの最期の姿を否応なく見せられるのか。

 酷い話だな。


 ……まぁ、俺たちもその中の5人になるかもしれないんだけどね。

 そんなことを、番兵さんに餞別に貰ったお饅頭を食べながら考える。



「速いわ!」


「これがブラックロードの実力ですか!」


 デモンドに入った途端、リリスさんが馬王に本気を出させた。

 ……凄まじかったよ。


 普通の馬の全力……早馬ってやつか?

 それの倍以上の速度がある気がした。


 俺は馬車から落ちないように気をつけながら、ターズデスカリバーの柄を握り、指輪の気配を感じる方向をリリスさんに指示する。


「リリスさん! 真っ直ぐです!」


「了解だ!」


 御者台から腰を浮かせ気味で手綱を取るリリスさん。


 デモンド入りして数分後。


 まず大量の魔の狼……ダイアウルフの大群が襲って来たけど。

 余裕で振り切った。


 ダイアウルフは、ゴブリンの一部が騎獣に利用する事例がある狼で。

 かなりデカイ。普通の狼の2回りくらい大きい。


 足も速く、持久力もあるんだけど……


 馬王ブラックロードはそれ以上だったんだ。



 次に、空から大量の女の顔と胸を持つ怪鳥……ハーピーが舞い降りて来た。

 だが、こいつらも余裕で振り切る。


 ……こいつらも危険極まりない魔物なんだけどね。

 男を見ると攫って巣に持ち帰り、集団で精を搾り取って。

 無事に卵を孕むと、今度はその男を引き裂いて餌にする。


 ハーピーは種族的に雄が居ない魔物で、他の生物の雄を利用するんだよ。

 そして雄を使い倒した後、最終的に栄養にする。


 そんな恐ろしい魔物だ。

 やつらも速さには自信があったみたいだけどさ……


 ブラックロードの方が数段速かった。


 追跡が不可能であると諦めてしまったときのハーピーの鳴き声が、本当に悔しそうで。


 ……なんかゾクゾクした。


 そして


「停めて下さい!」


 ジェシカさんの叫び。


「誰かが何人も倒れてます!」


 だけど


 ……俺たちは無視した。

 確かに、行く手に数人の人間が倒れている。


 デモンド入りして1時間くらい過ぎたのに。


 人間が倒れているんだ。

 多分、入り口から100キロくらい離れてるはずなのに。


 バタバタと。

 一般的な服を着た人間が。


 ……おかしいだろ。


 そこで、ジェシカさんの肩をポンポンと姉さんが叩く。

 俺の代わりに言ってくれるのかな……?


「ジェシカさん」


「はい……?」


 厳しい表情を浮かべた姉さんに、事情をよく理解していないジェシカさんが戸惑う。


 そんなジェシカさんに、姉さんは言った。


「……あれは魔物よ。どう考えてもおかしいでしょ。こんな場所で行き倒れの人間なんて」


 そう。

 あれは魔物以外考えられない。


 ここまで到達した人間の足を止めさせて、襲う気なんだ。


 ……こんなところで、ただ延々と人間の善意に付け込んだ罠を張り続ける……

 俺はそこに、言い知れぬ不気味さを感じたよ。


「勇者様!」


 そんな行き倒れ人間モドキというトラップ群を抜けた後しばらく。


 とうとう、リリスさんが言ったんだ。


「5重の塔が見えて来たぞ!」

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