第80話 5重の塔にて

 5重の塔。


 5階建ての石の塔だ。

 形状は円錐型。

 まるで聖獣と称えられる生き物「ユニコーン」の角のようだった。


 純白の綺麗な石……

 大理石みたいな石で作られている塔。


 大理石みたいな、だ。

 そのものじゃない。


 大理石であった場合の強度の点は分かんないけど、おそらく違うもので出来てる。

 白さに濁りが無いんだよ。


 本当に白いんだ。

 白い塔……


 あまりキッチリ誰も観察しなかったんだろうな。

 余裕なくて。


 5階建てだから、5重の塔って言い方しかできなかったんだ。


 俺なら「純白の塔」って名前を付けると思う。

 そっちの方が相応しい。




「……馬車は1階に置いていくしか無いな」


「ほとんどの魔物はどういうわけか、人間以外は積極的に襲いませんのでェ。おそらくここに隠しておけば問題無いかとォ」


 ロリアの薦めもあって、俺たちは5重の塔の1階内部に馬車を停めた。

 これが無いと帰れないから、祈るしかない。


 周囲に魔物がいる気配が無いので、多分大丈夫だと願いながら。


「番をする人間が欲しいが、それを頼める人間が1人も居ない以上しょうがないな」


 ここまで手綱を取って来たリリスさんも不安みたいだ。


「こういうときは覚悟を決めましょう。……行きましょうか」


 いつまでもグダグダ文句を言って、踏ん切りをつけないと問題が片付かないので。

 姉さんがそう言い切って、先行して歩き出す。


 俺たちは慌ててそれについて行った。




「デモンド奥にある建物なのに、魔物が居ませんわね」


 ジェシカさんが周囲を見回す。

 歩きながら。


 右手に戦棍メイスを握ってる。

 魔物が出たら即刻殴りつけるつもりなんだな。


 ジェシカさんの戦棍メイスは、ハンマーの部分が無骨に大きく重そうで。

 女性の振るう武器に見えないことに、本当に違和感あるわ。

 常態のジェシカさんは聖女で通る様子だしね。


「何も居ないから安全って意味では無いと思うわ」


「ええ。それはそう思いますけども」


 姉さんがジェシカさんの言葉に応じ、さらにそれにジェシカさんが応じる。


「勇者様、本当にここで間違いないんだよな?」


 そして何度目かのリリスさんの質問。

 俺は頷き


「……間違いなく、この塔の天辺てっぺんに居ます」


 力強く断言。

 間違いない。


 この俺の腰に差している、ターズデスカリバーの柄を握る度に、指輪の気配を感じるんだ。

 この塔の高みに。


 だったらそれはおそらく塔の天辺だろ。


「……だったらホント、何で護衛が1匹も出ないんだ……?」


 リリスさんが引っかかっているのがそこなのか。


 ……まあ、ここで俺たち1回も戦って無いしな。

 不安になるのは分かる。



 そして。


 1階探索の中。

 最終的にひとつの赤い扉を発見した。


「せっかくだからこの赤の扉を選びましょうかァ」


 ロリアがそんなことを言って、その赤い扉を調べ始めた。

 せっかくだからって何なんだ。

 その言葉にツッコむと


 他の扉は全部同じ色じゃないですかァ、と返される。

 いやまあ、そうだけど。

 他の扉は黒かったけども。


 だからといって「せっかくだから」って言葉はおかしくない?


 そうこう考えているうちに。

 ロリアは扉を調べ終えて


「罠も何もありませんよォ。では、行っちゃいましょうかァ」


 観音開きの扉を開き、道を指し示す。

 その先には1本道が続いていて。


 そこを抜けると。


「……よくぞ来た。この試練の間に辿り着いたのは、お前さんたちで3組目じゃわい」


 目算10メートル四方の正方形の部屋があって。


 中央に魔物が居たんだ。


 その姿は身長1メートル程度の、緑色のローブを着た小柄な老人。

 彼が魔物だと思われるのは、顔が複数あったからだ。

 4つあった。

 頭は1つなのに。

 後頭部と、側頭部にも顔がついているんだ。

 代わりに耳が無い。


 どこから音を聞いているのかは不明だ。


「魔物ッ!」


 ジェシカさんの目つきが厳しくなる。

 そのまま飛び出さなかったのは、その魔物の発するオーラを感じたからか。


 ただならないオーラを発していた。

 何か、違う……


 俺たちのそんな警戒を他所ヨソ

 その老人の姿の魔物は、最初話していた口とは別の口で


「ワシはこの階の番人ダンタリオン」


「ワシが許さぬ限り、この階の階段への道は開けぬ」


「今すぐ去るか、ワシの提示する試練を受けるかを選べ」


 口々に話したんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る