第12話 仕方なく
「ダメに決まってるでしょう!」
久々に本気の姉さんの一喝が飛んできた気がする。
1食だけ炊き出しを貰って、食費を節約しよう。
そう提案しようとしていた。
それがバレたらメッチャ怒られた。
俺は慌てて
「でも、俺たち今収入少ないじゃん」
少しでも節約しないと、貯金が出来ない。
貯金が出来ないとパワーが貯まらないから、いつまで経ってもこのまんまじゃん。
そう言ったら
「それでも、生活困窮者への支援を使おうとするのはダメよ!」
私たちは家もあるし、食べ物にも今は困っていない!
その状況で「お金が勿体ないから」という理由で、炊き出しに並ぶなんて絶対に許されない!
あれは「その日を食べることも困ってる人」のものよ!
お金を節約するために利用して良いものじゃない!
……怒涛のお説教。
まぁ、途中で自分が悪かったことには気づいたけども。
確かにゲスいな。
油断してた気がする。
マジで説教されたのは久しぶり。
……ああ、イモ引いちゃったな。
ちょっとうわついていたのかもしれない。
お金貰って戦ってるから、いっちょ前の気になって……
そう思い、誤魔化すように頭を掻いていたら
「あら、アルフレッドさんにセリスさん。教会に説法を聞きにいらしたのですか?」
……聞き覚えのある声。
というか、俺たちの今の雇い主。
パーティーリーダーのジェシカさんが居たんだよな。
炊き出し側に。
……休みの日なのに、ジェシカさんはそこで働いていたんだ。
いつも通りの神官服で。
「いえ、実は炊き出し作業の手伝いをしに来たんですよ。ボランティアです」
説法を聞きに来たって言ってしまうと、教会に向かわないといけなくなるし。
だからといって本当の理由「炊き出しで1食貰いに来た」って言うと、パーティーリーダーに軽蔑されるし。
だったら、これでしょ。
ただの通りすがりって言う手段もあるけどさ。
これだったらジェシカさんとの関係性も深まるから、もう少し稼げて余裕ある仕事を取って来る努力を許してもらえるかもしれない。
……あとさ。
手伝ったら、1食食べさせてもらえるかもしれないじゃん。
これはちょっと言えないけどな。
絶対に姉さんに怒られると思うから。
「熱いので気をつけてください」
ジェシカさんは野菜スープを配ってた。
生活困窮者が持ってくるスープを入れる容器に、大鍋から野菜スープを注いでいく。
俺はパンを配り。
姉さんはおにぎりを配っていた。
「おにぎりです。1人1個です。2人分まとめてくれとかそういうのは受け付けられません」
……姉さんはそんな感じで、1人の人間に1つのおにぎりを渡すことを徹底してる。
たまにいるんよな。
仲間の分もまとめてくれとかほざく人。
そんなもん、許可できるわけねーじゃんよ。
俺はそういうの平気で「無理です」って言えるけど。
姉さんも躊躇わずに言うんよな。
女の人なのに。
その辺の胆力、俺は尊敬している。
「もう一度言う。俺には3人の子供と嫁が居るんだよ。5つくれ」
……って。
言ってる端で、湧いたのか。
なんか大声でそんなことを言うやつがいる。
姉さんに向かって。
……ああもう
「ルールを守る気が無いなら帰ってくれませんか?」
俺はそのおっさんにおっさん以上に大きな声でハッキリ言ってやった。
おっさん、男の俺がビビらないでそう言ってきたから
「だから、俺には3人の子供と女房が……」
ごにょごにょと、トーンダウン。
……自分の威嚇にビビらないから、萎縮したか。
典型的な「自分が100%勝てる」という確証が無いと強く出られないタイプだな。
正直、軽蔑するわ。
でもま、そういうのを全面に出すとコイツのプライドが崩壊して、発狂を引き起こすから
俺は出来るだけ穏やかに
「……残念ながら、証言だけでは証拠にならないので、それを許すと他の人にも認めなきゃいけなくなるんで」
諦めて下さい。
ここでもらった1つを奥さん子供に渡してからもう1回並び直すか、もしくは本人を連れて来てください。
そう言って斬って捨てた。
「いや、本当に申し訳ないですけども」
……嫌味か小馬鹿にしてるようにとられないかなと思いつつ。
最後に謝罪を付け加える。
さあ、どうかな……?
ここは目を逸らすところではないから、まっすぐにおっさんを見つめた。
すると……
「分かったよ。ホント、つかえねぇな」
おっさん、おにぎりを1つだけ受け取って去って行った。
ふぅ……
上手くいった、のかな?
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