第70話 神器は不滅だ

「お話は分かりました」


 ジェシカさんは町長の話を一通り聞き終えたと思ったのか、そう話を切り出す。


「除霊をお望みなんですね?」


 町長の顔色が明るくなる。


「……していただけるんですか!?」


 ジェシカさんは頷く。

 頷いて、こう続ける。


「天に昇れず苦しんでいる人々がいるのに、それを見過ごすのは神の教えに反します」


 こういうときのジェシカさんはとても神官らしくて。

 聖女、という雰囲気だった。


 というか……


「ジェシカさん、除霊できるんですか?」


「ええ」


 俺の問いに、ジェシカさんは頷き。


「ただ、その前にしていただくことが」




 町の広場。

 その場に、人が集まっている。


 町長が呼びかけて、集めたんだ。


「何だ……?」


「重大な連絡事項があるとか……」


 数百人はいる。

 町の住人たち。


 全員揃ったと感じたのか、町長は声を張り上げた。


「皆! 喜べ! この町を除霊をしていただけるぞ!」


 町長のそんな言葉に。

 一瞬、静まり返る町の住人たち。


 そして


 オオオオオオオオオ!!


 湧いた。

 大喜びだ。


 除霊をする場合、その対象の同意を取る必要があるらしい。

 なのでジェシカさんが町長にお願いしたんだ。


 ……この様子なら、そこは問題なくクリアできてるみたいだ。


「やっと……やっと終われる!」


「嬉しい……!」


「ありがとう!」


 ……町に入り込んだ生者を仲間に引き込んでしまう。

 彼らは俺たちにとっては恐怖の対象だけど。

 そうなってしまうまでに、相応の苦しみがあったんだろうな。


 その喜び具合に、俺はそれを自覚する。


 その歓声の中で


「アルフレッド」


 俺に声を掛ける者。

 親父だ。


 すぐそばに、親父が居た。


「親父……」


「お前が大きくなるのに付き合ってやれなくてごめんな。父さんの甘い見通しと、エゴのせいか」


 親父は寂しそうだった。

 そして俺の頭を撫でながら


「お前の瞳の蒼さは母さんに良く似てる。母さんは俺にとっては最高の女性で、お前は望まれて生まれたんだよ」


 懐かしそうに。

 ……俺の頭の中に、母さんの顔は無い。


 覚えて無いんだ。


 だけど……


 親父の顔は、ハッキリと思いだせるようになってきた。


 ああ……

 一緒に暮らしたかったなぁ……


 気が付くと、涙が溢れてて。

 俺は親父に抱き着いていた。


「親父、これでさよならなんだね」


 親父の方も俺の頭を撫でてくれる。

 そして親父は


「ああ、除霊されたら俺も消えるだろう。ただし……」


 そこで親父は、腰に吊るした神器・ターズデスカリバーの柄を触った。


「……神器は不滅。除霊されて、町が消滅してもこの剣だけはその場に残るだろう」


「それは絶対?」


 俺の問いに


「ああ、絶対だ」


 親父は、力強く肯定したんだ。

 そして俺の目を見つめながら


「だから頑張れ。魔王がどういうものか全く分からないが、そこに母さんがいるはずだ」


 親父の話からすると、そうだった。

 魔王は、母さんの元夫の不始末の責任を取らされる形で、何故か攫われた。

 魔王の島に辿り着けば、返してもらえるという。


「俺の代わりに母さんを救って、お前は幸せに暮らすんだ。

 ……父さんのやり残した仕事を押し付けることになるが、勘弁してくれ」


 さらに親父はそんなことを言って俺に詫びたけど。

 別に俺はそんなことはどうでも良かったよ。


「母さんに、親父が心底惚れ抜いていたって伝えるよ。任せてくれ」


 ……俺の中に。

 魔王の前に立たなければならない明確な理由が出来た瞬間だった。

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