第52話 神牌

 クルスの町は、建設されてまだ30年経ってない若い町だった。

 町の名物は、劇場でのきわどい衣装を身に着けたお姉さんたちのエッチなダンスと、大きな温泉宿。

 温泉目当ての観光客を酒と食べ物とエロで楽しませる。


 そういう設計で町を組んで、それで運営してるんだ。


 俺たちは町一番の大きな酒場に行って、この町の古参の住民と話をするには何処に行けば良いのかを訊いたんだけど……

 店で働いている従業員の男性がこんなことを教えてくれた。


「ここは観光客向けの酒場だからね。少々お高いし」


 だから、もっと安い店に行くと良いと思うぞ。

 そういうところに行くと、昼間から飲んでる老人が居る。


 ……酒を昼間から……


 偏見かもしれないけど、そういう人って物事に詳しいんだろうか?

 何か、会話にならないんじゃないかというイメージあるんだけど。


 そう思ったので俺は


「他は無いんでしょうか?」


 ちょっと勇気が要ったが、それを訊ねた。


 すると従業員の男性は


「……そうは言っても、老人の楽しみは酒を飲むことと、神牌しか無いからな。この町だと」


 神牌……


 よくおっさんがお金を賭けて遊ぶ、運の要素と戦略が要求されるゲームよな。


 六大神の聖印と1から7までの数字が刻まれた牌、剣と鏡と指輪の絵が刻まれた牌、そして1から7までの数字以外、何も描かれていない牌。

 それぞれを聖印牌、絵牌、単数牌と呼び。

 それを12枚ずつ組み合わせて、対戦相手より先に役を作るのを競うゲームだ。


 俺はやらないけど、初心者でも運次第で熟練者を倒すことが出来るので、そのせいでのめり込む人間が多いと聞いている。

 近所のおっさんで、月の給料を一晩で溶かしたとか言ってる人が居たよ。

 子供心に馬鹿だと思ったけどさ……


 やっぱそれぐらい楽しいんだろうな。

 一応、今はそういう予想は出来る。


 ……ああ、後。補足説明だけど。

 牌というのは、小さな直方体のコマのことだから。


 安いのは木製で、お高くなると動物の骨。

 さらに高くなると、翡翠ひすい瑪瑙めのうのような宝石を削り出したヤツもあるらしい。


 ……元々は、人間の骨で作ってたらしいんだよね。

 神事で、神にどうしようもない揉め事の解決法を問うための勝負をさせるとき。

 そのための競技として考案されたんだそうだ。

 神官の間で、どうしても話し合いで決着がつかない場合に、神牌で決めるんだな。

 ……勝った方の主張が神の意志であるとされるわけだ。


 こういうのを神牌裁判って言ったと、昔教えて貰った。

 その近所のおっさんに。


 なので昔の神官は、神牌の達人が多かったらしいんだけど……


「神牌!」


 ……その一言でジェシカさんが燃えた。

 そして、自信満々で胸に手を当て、こう言い放ったんだ。


「任せてください! ワタクシは生まれてこの方、神牌で負けたことがございません!」


 ……マジかよ。

 俺は驚くしかなかった。

 すげえな……!

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