第53話 賭博は厳禁です!

 ジェシカさんは、神殿でまだ修行をしていた時代、神牌裁判になったときに負けたことが1回も無く。

 別の街の神殿同士の揉め事で、代表牌神官を立てて裁判をする際の代表に選ばれていたそうだ。


「すごいじゃないですか」


 素直に褒める。

 すると、視線を逸らし少し照れくさそうにする。


 ……俺より年上の女性なのに、なんか可愛いな。


 そんなことを頭の片隅で考えていると。


「そんなにお強いのにィ、何故やめちゃったんすかァ?」


 ……ロリアからもっともなツッコミ。


 まぁ、確かに。

 それは気になるけど……


 ジェシカさんに視線を向ける。

 すると


 ……なんか目が泳いでいる。

 ような気がした。

 で、そのことについてこう返答。


「お前はもう神牌裁判で打ってはいけないって、大神官様に」


 ……うーん。

 狂信者ではあるけど、十の願いを忠実に守る人生を送ってるジェシカさんが。

 何でそんなことを言われたんだろうか?




 酒場で場所を聞き、神牌打ちが闘牌を楽しむ施設の、町内会集会所に向かった。

 ここで神牌打ちがたむろして、朝から晩まで神牌で遊んでいるそうな。


 施設、というか建物は、土の壁の建物で。

 大きさは結構あった。


 外観はあまり綺麗には見えなかったけどね。


 中に入ると、大きなスペースで、結構な数の神牌卓が。


 で、おっさんや老人がそれを囲んでる。


 おお……しかしなあ


 誰に聞けばいいのやら


 そう思って迷っていると


 ジェシカさんがずんずん進み、4人掛けの神牌卓で、1人欠員が出ている卓に向かい。


「ここ、よろしいでしょうか?」


 そう、丁寧に3人の男性……老人、老人、おっさんに訊いたんだ。

 この空いてる席に座って良いか? と。


 彼らは紙巻き煙草をふかしつつ、ジロリとジェシカさんをけて。


「お嬢ちゃん、種銭持ってんのかい?」


 老人の1人が明らかに神官姿のジェシカさんにそんなことを。

 ジェシカさんは


「ワタクシはお金を賭ける気はありません。賭博は禁止されてる行為ですし」


 ……そう答える。

 オイオイ、と思った。


 そりゃ賭け事をするのは、基本的に十の願い「奪うな」を「契約」で誤魔化してるグレーな行いだから、やれないのは分かるけど……

 それに言う通り、確か法律でも金銭を賭けてゲームをするのは違法だったはずだし。建前は。


 でもこの人たち、それじゃ納得しないだろ。


「……話にならんな。帰んな」


 ホラ見ろ。

 そう咥え煙草の白髪角刈り老人は、神牌に戻ろうとしたんだけど。


「代わりに、ワタクシは今、この着ている衣服のこの場所での着用権を賭けますわ」


 堂々と、そう言ったんだよね。胸に手を当てて。

 その瞬間、老人たちとおっさんが、マジか!? という顔をした。


 無論俺も思ったよ。

 ちょっと待て! って。


 着用権を賭けるって。

 それはつまり……


 負けたら脱ぐってことだろ……?


 俺はジェシカさんのその発言に動揺してしまう。

 そして動揺する俺を他所に


 ジェシカさんはこう続けた。

 ごくごく普通の調子で。


「……なので貴方がたには、ワタクシたちの情報収集に全力で協力することを賭けていただきたいのですけど」

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