第54話 神牌は負けたら脱ぐゲームだから(違う)

 老人とおっさんたち、ちょっと思案し。

 こう言った。


「……面白いじゃねえか。俺たちを舐めんなよ? 負けたらマジで剥くからな?」


 ジェシカさんの発言を、自分たちを舐めていると受け取ったらしい。


 提案は受け入れられた。

 おっさんたちとしては、別にエロ目的で挑戦を受けたわけじゃない。


 女を武器にしたら、自分たちを簡単に篭絡できる。

 そう言われたように感じたのが引っかかったんだろう。


 だからまぁ、ある意味ジェシカさんの身の安全は保障されてるけど。

 負けたら脱がされるところまでは確定なんだ。


 どうしよう……?

 止めるべきなのか……?


 だけど俺が混乱している間に


「そのお言葉……世界のへ、私の記憶、刻みつけ、ますね」


 ニコッと微笑み、ジェシカさんは空いてる席に着いた。

 ジェシカさんは本気だ。


 ……なんか、席に着く前に喋った内容がちょっと意味が分からなかったけど。

 そんなの今はどうでもいいよな。


 ジェシカさんは勝てるのか。

 そこが問題なんだよ……




 だけど


「ツモです」


 ジェシカさん、いきなりチョンボした。

 ゲーム開始して3巡目くらいに、ツモ……自分が引いた牌で自分の手が完成したことを宣言する言葉……を発したんだ。

 最初は「マジか!?」って思ったけど。


 手を公開したら、ジェシカさんの手……成立してない。

 チョンボとは神牌用語で「ミス、ルール違反」を指す言葉。

 手が完成していないのに「ツモ」を宣言するのは無論ミスであり、ルール違反だ。


 なので


「……仕方ありませんね」


 俺たちが見ている前で。

 ジェシカさんは神官服のローブを脱ぐ。

 その下に普段は鎖帷子を着ているんだけど。

 今日はバトる予定になかったから。

 白い地味なシャツ。

 ボリューミーではないけど、綺麗なボディライン。

 胸が存在感を示してるのは、普通に記憶に焼き付く。


 けれども、そんな視線を浴びながら


「失礼しました。続けましょうか」


 ニッコリ笑って、平然としながら。

 ジェシカさんは神牌を続けたんだ。


 そこからはジェシカさんは強かった。


 神牌というゲームは、基本「牌3枚を1セットとして、それを同種牌連番か、完全同種で4セット揃える」ことで手の完成とする。

 なのにジェシカさんは


 え、それ切っちゃうの?


 そういう捨て牌が目立った。

 連番や完全同種で2つ揃ってるのに、それからわざわざ切って行ったり。

 1セット揃ってる牌を、全部切ったり。


 でもそういう捨て牌をした後、ジェシカさんは必ず「あれは英断だったんだ」と思える牌を引くんだよ。

 で、必ず上がる。


 そして、もっと上が狙えたはずなのに、妙に安い手で上がるときもあったんだけど。

 そういうときは……


 おっさんたちの顔色が決まって悔しさに染まってたんだよね。


 ……多分、相当配牌が良かったんだな、って。

 俺でも予想がついた。


 で、結末が……


「アラアラアラ」


 配牌が終わり、1巡目だった。

 自分の番で山から牌を引いたとき、ジェシカさんはそんな言葉を発して。

 ニコニコしながら手を公開。

 そして


「ツモです。創世神話」


 ……役満を出しやがった。

 やりやがったよ……マジか。


 創世神話とは、6つの聖印牌を全種類連番で揃え、3つの絵牌を1枚ずつ全て揃え、聖印牌に無い数字の単数牌を3枚揃える役。

 出ると縁起が良く、幸運が訪れると言われている手。


 昔、近所のおっさんに教えて貰った知識だけど。


 で、これで。


 おっさんたちの持ち点が全員ゼロになり。

 ジェシカさんの圧勝が決定したんだ……。


 結局、負けたのは最初のチョンボのみで。

 あとはずっとジェシカさんのターン。


 ……生まれてこの方神牌で負けたことが無い。

 俺は、ジェシカさんのその言葉に嘘偽りが無かったことを、確認してしまったよ……。

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