第55話 情報ゲット。しかし……

「……分かった。口ばかりかと思ったら立派な打ち手じゃねぇか。お嬢ちゃん」


 3人の男性たちで、一番立場があるように思える男性が敗北を認める。

 少し大胆なことを言えば、男たちはまともに戦えないだろう。

 そういう思いでやってるのかと思い、舐められたと感じたけど、そうじゃなかった。


 真っ当にジェシカさんは強かった。


 多分、そういう思いなのかね。


「それなり神牌歴は長いです」


 神官服のローブを脱いだ状態で、ニコニコしながらジェシカさん。

 男性たちは


「……正直、すっぽんぽんに剥いてから、最後にお情けで手伝ってやろうかと思ってたが……やってやるよ。金が掛からないこと前提で、全面的に手伝ってやるよ」


 ……ああ、金は払わんのね。

 金を賭けたわけじゃないから。


 そこは譲らないんだ……


 脇で聞いてて面白かった。




 老人は町の老人の中ではそれなりに影響力を持った古参で、俺たちの聞きたいこと……あの謎の荒野……あそこの情報はそれなりに持っていた。


 どうも、あの荒野は町の住人の常識で「出来る限り近寄ってはいけない場所」らしい。


 その理由は「立ち寄ったせいで、行方知れずになる」から。


 ……どうしてそうなるのか?


「……夜中にあそこに行った奴で、あそこに町があるのを見た奴が居る」


 そして、異様であるという理由でビビってそこから逃げた奴は帰って来れたが。好奇心で町に入ってみた奴は帰ってこなかった。


 そういうことなんだそうだ。


 夜中に出現する謎の町……


 そこに鍵がある気がする。

 神器はそこにあるのかも。


 だから「近くに絶対にあるのに、神器が見当たらない」って状態だったのか。


「夜中ならいつ行っても出現するのかしら?」


 一緒に聞いていた姉さんが疑問点の確認。

 老人は首を左右に振り


「そこまでは俺は知らねえけど……待ってろ」


 老人は席を立ち、別の卓で打ってる太めの年配男性に話し掛けて言葉を交わす。

 そして戻って来て


「月の無い晩だったそうだ」


 おお……


 一瞬で欲しい情報が揃ってしまった。




「大手柄じゃないですか」


 集会所を出て、神官のローブを着用するジェシカさんを賞賛する。

 するしか無いよ。


 ジェシカさんは「お役に立てて嬉しいです」そう微笑みながらペコリと。


 だけどそこに


「……ジェシカさん、あなた」


 姉さんの言葉。

 それは淡々としていたけど


「……開幕で、神官の魔法を使ったわね?」


 言った内容で、姉さんの顔を見てしまった。

 えっ……マジ?


 言われたジェシカさんの顔も確認し……


 その目がちょっと泳いでいるのを見て取って、本当のことだと確信。


 ……マジかよ……


 衝撃を受ける。




「魔法で私は、自分の記憶力を一時的に上昇させました」


 覚えようと思ったことを一時的に絶対に忘れない。

 そういう魔法を使ったそうだ。


 ……そういや、不自然な発言が1回だけあったな。

 あのときか……


 あれ、祝詞だったんだ……。


 そんなことを思い、俺が衝撃を受けていたら。


「神官が神官の魔法を使って何が悪いんですか、と言いたいところですが」


 さらにジェシカさんは続ける。


「一度見聞きしたことを忘れない人間は実在するわけです。持って生まれた場合と、神の加護でそうなることに差があるとは思えません」


 目はちょっと泳いでるんだけど。

 そんな、なんか説得力のある理屈を吐く。


 さらに


「そして大体、祝詞は神官個々人で内容が違うので、証拠も残らないわけですし。誰も傷つきません」


 ええと……


「確かに、証拠は何も残らないし。それに重ねて言えば、記憶力を上昇させただけで、あの打ち方は出来ないとは思うわ」


 記憶力上昇で、牌を全て記憶できたとしても、その記憶をキチンと整理して、どういう打ち方をすれば最適解になるかを弾き出すのは別問題よ。

 ……多分、最初のチョンボは「どうやっても絶対に先に上がれないので、ならば相手の油断を誘うため」だったからでしょう?


 ジェシカさんの打ち方を指摘する姉さんの言葉には非難の響きは無かった。

 ただ、事実の確認をしているだけに聞こえる。


 ……聞いてる方は衝撃を受けるけどさ。


 姉さんの指摘はそれだけでは止まらない。


「……それだけじゃなくて」


 姉さんは無表情でさらに続けて


「最後の……ええと『創世神話』……ツミコミでしょ? アレ」


 ツミコミ……ツミコミって

 何だっけ……?


 聞いた覚えはあるんだけど


 それに対してジェシカさんは


「ただの偶然ですよ」


 そう言って微笑む。

 そのときの目はよく見えなかったが……


 多分、ツミコミってやっちゃいけないことなんだろうなぁ。


 で……


 思った。


 多分そういう打ち方するから、代表から外されたんだ。

 ジェシカさんは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る