第97話 指輪の神器

 指輪の神器「自在の指輪ウェンドスリング」

 現象の神ウェンドスのチカラを宿した神器だ。


 ウェンドスはこの世に「燃焼」「凍結」「切断」「爆発」「腐敗」「落雷」「落下」などのあらゆる現象を作った神様。


 ウェンドスリングはそういう現象を自在に召喚し、あるいは消去する能力があるらしい。


 魔将サウラスはこの指輪を所有していて。

 今さっき、燃焼を、炎を召喚したんだ。

 

「召喚できるものは炎だけではないぞ」


 サウラスには驕った様子はない。

 事実を口にしているだけだ。


 リビングアーマーなのに、武装が無く、レスリングスタイルなのが何故か良く分かった。

 ……要らないからだよ。

 ウェンドスリングがあれば。


 サウラスはスッと手刀を天に向けて高く掲げた。


 これは……


 切断!


 直感で思った。

 切断が来る!


 サウラスの視線はジェシカさんに向いていて。

 ジェシカさんは血の気が引いた様子でそれを見つめていた。


 ジェシカさんは戦士の技量もあるけど、それでウェンドスリングで召喚された「切断」を回避できる確証はない。

 間合いも速度も分からないし。

 分からないものは備えられないんだ。


 ……だから、必殺技と言ってもいいかもしれない。


 ハッキリ言って危機だ。


「サウラス!」


 姉さんの気合の声。

 その瞬間、サウラスの周囲を吹雪が包むけど、1秒もしないうちにそれが打ち消された。


 ……現象の消去……!


「魔術師系の魔法は効かぬと心得よ」


 サウラスは平然とそう姉さんに返しを入れ


 今度こそ、手刀を振り下ろした。


 目に見えない力場が、刃になってジェシカさんに迫る……!


 俺は飛び出した。

 そしてターズデスカリバーを抜き、ジェシカさんの前に割り込んで、その輝く刃で上段から振り下ろされた不可視の現象の刃を斜めに受け流す。


 どれだけの破壊力があるかしれないが、神器の剣をへし折ることは誰にもできない……!

 半ば賭けに近いものがあったけど、俺は神器の不壊不滅という絶対信頼を盾に、サウラスの繰り出した必殺技に立ち向かい……


 俺は斬られていない!

 無事だ!


 俺は賭けに勝ったんだ!

 その確信と共に、俺は踏み込む。


 魔将サウラスに向かって。

 受け流した剣をそのまま振りかぶる形に移行させ、踏み込みと共に袈裟の斬撃へと繋げる。


 サウラスは振り下ろした右腕をそのままに、俺の剣を受けた。

 その肩口から脇腹で。


 だけど……


 俺は危険を感じて後ろに飛ぶ。

 飛びつつ神器の剣を盾にして構え、胴を護った。


 ギンッ、という甲高い音がする。


 サウラスの左手によるもうひとつの手刀。

 胴薙ぎの軌道で、再び切断を召喚してきたんだ。


 確実に斬撃を決めたし、手ごたえもあったのに……!


 サウラスは無事だった。

 これは一体どういうことだ……?


 少し混乱したけど、着地して剣を正眼に構えたときに気づいた。


 あ……そうか。

 コイツ、俺の斬撃の結果を消去したのか。


 切断の召喚ができるんだ。

 消去だってできるだろ。


 だって、そういう神器なんだから。

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