第42話 白々しい芝居の果て

「わー、きゃー」


 棒読みで。

 キャッキャウフフをしていた。


 心ここにあらずだ。


 俺は他のメンツに水を掛けた。


「きゃー」


「つめたーい」


「わー」


 姉さんと他2人も、合わせてはくれているけど。

 正直、迫真の演技とは言い難い。


 ……相手は畜生だし大丈夫だと思うんだけどさ。

 ヒュドラって、ただの大蛇の魔物でしょ?


 かれこれ30分くらいやってる気がするんだけどな。

 一向に襲撃される気配がない。


(畜生相手でもわざとらしいって思われているのか)


 姉さんに水を掛けながらそんなことを。


 姉さんは……


 うん。

 非常にグラマラス。

 綺麗だ。


 男に見られたらエッッッ! って言われるな。

 完成されたボディラインだと思う。

 うん……


 そしてジェシカさん。

 神官らしく、清楚の一言だと思う。


 綺麗だからね。

 特に足。


 素足なんだよね。

 当たり前だけど。


 ……前にロリアに足フェチかと言われたけど。

 言い返せないかも……


 ……しかし女体化しても、男の目って拭えないもんなんだなぁ。

 女性の身体をエロい目で見ている自分をどうしても感じてしまう。


「おーい勇者様方ァ、肉が焼けましたッスよォ~」


 ロリアの呼び掛け。


 上手に焼けました! って響きがあった。


 うん、まあそろそろ一息入れた方が良いのかも。

 俺はそう思ったので


「ロリアもああ言ってますし、食事にしましょうか」


 そう、ジェシカさんとリリスさんに呼び掛ける。


「そうですね」


「分かった勇者様!」


 リリスさんの返答がなんだかテンション高かった。


 俺が一応、国王陛下から勇者認定受けて魔王討伐を命じられた勇者だって知った後、なんだかテンション高いんだ。

 故郷の王都だと、そうでもなかったのに。


 英雄願望ある人には、やっぱネームバリューがあるのかな?

 良く分かんないけど。


 で、俺が2人に続いて湖から上がろうとすると。


 ガチッっと。


 何かに足を掴まれた。


 えっ、と思ったら。

 次の瞬間、俺は逆さづりにされた。


 ザバァ! と。


 湖の中から巨大な影が立ち上がる。


 それは青銅色の大蛇で。

 大きさは10メートル超え。


 そして頭が複数あった。


 中央の首が一番太いけど。


 それより細い首が、まるで樹木の枝分かれのように生えている。


 ……ヒュドラだ。


 俺を宙吊りにしているのは、その枝分かれした細い首のひとつで。


 すぐ傍にあった別の蛇の首が、シャアアアという音を立てて舌を出してチロチロさせている。


 ……掛かった。


 達成感を感じる。

 けれど


 今の俺は女体化しているので、パワーが無い。

 魔術師系の魔法は使えるけどさ……


 こいつにあまり強力な魔法は使えない。

 例えば、電撃。


 コイツに、俺は獲物にするには高くつく。


 そう思われると、逃げられるしな。


 だから俺は


 ガブリと俺は噛まれた。

 肩を。

 ろくに抵抗しなかった。

 いや……出来なかった。


 牙が食い込み、毒を注入される感覚を感じた。


 ……同時に「間に合え」と考える。

 なので、俺は敢えて脱力したんだ。

 抵抗できないフリをした。


 すると

 充分に獲物に毒を喰らわせたと思ったか、中央の首がガパァと大きく口を開けた。


 ……だよね。


 サイズ的に、丸呑みするのは中央の首だと思ってたよ。


 近づいてくる大蛇の大顎。

 だけど


 俺はすかさず、その大顎の中に手を突っ込んで、舌を握ったんだ。


 ……触れたものを熱くする魔法を使用しつつ。


 本来は料理をするときに使う魔法。

 フライパンを加熱する魔法なんだ。

 本来は。


 そんな手でヒュドラの舌を握ったんだよね。


 ヒュドラの舌が、熱くなる。

 ヒュドラの舌はそれで火傷はしないけど……


 いきなり口の中に熱したフライパンのようなものが出現するわけだから


 まあ、驚くわ。

 暴れるヒュドラ。


 拘束が緩む。


 その一瞬で俺は脱出し、水に落下、そこから必死で逃げた。

 毒が回りつつあったので、ジェシカさんに向かって。


 ヒュドラが追ってくる。

 何だか分からんが、獲物を逃がしたので追って来てるんだな。


 ……狙い通り。


 俺は叫ぶ。


「ジェシカさん、解毒! ロリアか姉さん、お湯!」

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