第41話 ヒュドラをどう倒す?

「どうやってヒュドラを倒すのかだけど」


 冒険者が集まる酒場に移動して、親睦を兼ねて相談をする。

 エールや果汁入りの水、お茶を飲みながら。


 俺も、実際に戦う場合の注意点しか知らなかったので、具体的にこれからどうやって倒すかはアイディアが無くて


「湖に行くだけじゃダメなの?」


「もしかして湖の中に潜んでいて出てこないのですか?」


 ジェシカさんと一緒にそう訊ねる。

 すると


「……順に答えるわ。まず、この資料にあるように、1頭だけじゃないのかもしれないでしょ」


 そういって「退治した証拠は、こちらで確認する」のくだりを指で示す。

 ……ああ、確かに。

 1頭だけで良いとは書いて無いし。

 認めるのが向こうである以上、そう取るべきだよね。

 例えば蠅を退治しろと言われてさ、沢山湧いてるうちの1匹だけを殺して


 はい、退治しました。


 これは通らないだろ。


 だったら


「どうすんのさ?」


「根こそぎ倒すのは基本ですが、確かに難しいですわね。……どのように?」


 俺たちは姉さんに訊ねる。


 姉さんは


「ヒュドラはね、魚は食べないのね。好物が人間で、その次が陸上生物の牛や豚、鶏。あと羊や馬のような……そんな家畜の肉を好むの」


 ……水の中に棲んでるのに?


 どういうことなのよ。


「その辺が魔物なのよ。魔王が人間を攻撃させるために創った生き物。常識が通用しないのね」


 魚に関する被害は、魚が毒の水でやられて、抵抗力が弱い個体が死んでしまうことくらい。

 食べられ尽くして居なくなるってことは無いの。

 毒で全滅する、はあるかもだけど。


 ……そうなのか。


 だったら……


「水辺で連中が食事に出てくるのを待っていればいいの?」


 そう訊くと


「……それで退治が可能なら、公爵家がすでにやってるわよね」


 そりゃそうか。


 するとそこでリリスさんも参戦してきて


「公爵家で雇った戦士の一団がそれを試したが、ヒュドラが包囲の穴から山へ猪を普通に喰いに行くだけだったそうだ」


 ふーん……良く知ってるね。

 ちょっと引っかかったけど、まぁ


 だったら……


「ヒュドラにとって、一番都合がいい状況で餌を用意するのよ」


 それを受けて俺がアイディアを出す前に。

 姉さんに先に言われた。




 というわけで。


 俺たちは問題の湖で水着で遊んでる。

 魔物の傾向として、女性と子供の方を餌として喜ぶ傾向あるし。


 それに……


 公爵家はこういう手は使わないだろう。

 そういう結論だ。


 やってることは生きた人間を囮にする行為だからね。


 それで犠牲が出たらどうするの?

 という指摘が来るだろ。


 女体化した俺は白と黒のワンピース水着で

 伸縮性があるヤツを選んだ。


 お湯を被ってもそこまで問題でないやつ。


 姉さんは赤いセパレートタイプのビキニ。


 ジェシカさんは白いフリルが付いたセパレート。


 リリスさんは……全身を覆うタイプの黒い水着を着ていた。

 肌を見せたくないのかな。


 そんな格好で、俺たちは水辺で遊んでるフリをした。

 本気ではやらない。囮なんだし。


 武器の類は少し離れた場所に置いている。

 ヒュドラが出てきたらそこまでダッシュする予定。


 で、そこで。


 武具の隣でロリアが、ここに来る道中で仕留めた魔物の肉を、バーベキュー状態で焼いてくれてる。

 カウバードっていう、牛の特徴と鳥の特徴を持つ生き物だ。


 頭部は鳥だけど角が生えてて。

 全身に羽毛が無く。

 足は2本で、鳥の立ち方。

 前足は翼になってるけど、小さすぎて役に立たない。


 創世の1週間で生まれた生物でディアトリマという、肉食の飛べない巨大鳥がいるけど、こっちはそれより危険。

 コイツは餌が草なのに、人間を見ると襲ってきて殺そうとしてくる。

 喰うためで無いのに、殺そうとするんだよ。


 ……まあ、その分肉の味は良いんだけどね。

 草しか食べてないからさ。

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