第43話 VSヒュドラ

「アルフ! お湯よ!」


 俺のところにヤカンが飛んで来て、中身がブチ撒けられる。

 お湯を浴びることによって俺は元の姿を取り戻した。


 ワンピース水着が気になるけど、今はしょうがない。

 後は鋼鉄の剣を拾わないと!


 そのとき、少しクラっときた。

 毒が回って来たようだ。


 ……鋼鉄の剣の前に、解毒だ!


 ジェシカさん!


 俺が視線を向けると、彼女は両手を組んで祈っていた。


 そして


「彼の人に 毒を滅する 祝福」


 祝詞が上がると同時に、俺から解毒の実感があった。


 よっしゃ!


「勇者様! 剣ッス!」


 ロリアが鋼鉄の剣を鞘付きで投げてくれた。


 それなりの重量があるのに、それは俺に届く。

 ロリア、身長低いのに腕力あるんだなと思ったが


(ひょっとしたら、姉さんがサポートしてくれたのかな?)


 そう思い、取り敢えず鞘から剣を抜いて構えた。


 シャアアアアッ!


 ヒュドラの首が迫って来る。


 増えるのは分かっていたけど、俺は迫って来るその首を刎ねた。


 すると1分程度で切断面から2本生えて来た。

 

 ……知ってんだけどなぁ。


 まあ、根元から斬ったら増えた分はリセットされるわけだけど……


 そう思っていたら


「フヒャハハハッ! この魔物めッ!」


 見ると、俺の解毒をした水着姿のジェシカさんが、戦棍メイスでヒュドラの頭を叩き潰し、狂笑して血に酔っていた。

 ああ、いつも通り。


 頭を潰すと、潰したところからさらに2本首が生えてくる。


 ……切断しなくても一緒なんだよなぁ。


 だからまあ、潰すか切断したら焼かなきゃいけないんだけど。


 ……姉さんは難しい顔をしていた。


 炎を呼ぶときに俺たちを巻き込む可能性を気にしてるんだろうな……

 魔法の発動をするときに、俺たちが動くので狙いをつけにくい。


 普通に炎を浴びせるなら、俺たちが居ないところを狙えばいいけど、俺たちが首を刎ねたり潰したりしたところを狙うのは話が別。

 巻き込む危険、あるよなぁ……?


 結構、マズイかもしれない。

 攻略方法は知ってたから、できると思ってたけど。


 そんなに単純でも無いな……。


 どうしよう……出直すか……?


 下手に知ってたから、俺も姉さんも舐めて掛かってたところがあったかもしれない……!


 なんだけど。

 ふと、思うところがあったんだ。


 ……そういやこいつら。


 頭ってどこまで増やせるんだ……?




 いやさ、思うじゃん?


 二刀流ってあるだろ?


 2つの剣を両手で操り戦う戦闘法。

 これさ、人間には腕が2つあるもんだけど


 簡単には出来ないよな?


 2つのことを適当でなく、的確に動かしていくのは難しいんだ。

 たった2つですら。


 ……多分、ヒュドラって中央の太い首が司令塔なんだよな。

 頭それぞれに意志があるなら、統一行動が取れないだろ。

 バラバラに動かれちゃね。


 中央の首を司令塔と断じるのは、どう考えても食べる首がそれだからなんだけどさ。

 他の首は細すぎて、丸呑みに適さない。


 ……そして多分、切断したら増える首の方についてる感覚器官も、それぞれ生きてると思うんだ。

 飾りじゃないはずだし。


 何故って、見えてないと上手くいかない局面は普通にあるわけで。

 例えばさっき、俺が宙吊りにされた場面なんて……

 中央の首の視線は俺に届いていなかったと思うんだ。

 それが問題だった場合を考えると、全ての首が五感を備えていないのは無いと思う。


 だとすると……


「姉さん!」


 俺は火炎処理で攻めあぐねている姉さんに呼び掛けた。


「一度、限界まで首の数を増やしてみよう!」




 んで、俺、ジェシカさん、リリスさんの3人で首を刎ねたり潰しまくった。

 姉さんは刎ねた首を焼くのではなく、動きを阻害する目的で火炎魔法を使った。


 結果。


 うじょうじょ……


 って感じで。ヒュドラの首の数が100を超えた……

 ように見える。


 ……目に見えて、ヒュドラの動きが鈍くなったように思えるんだよな。

 多分気のせいじゃない。


 枝分かれに次ぐ枝分かれ。


 先に行くほど首の数が増えて行き、根元がさ……


 多分、筋力足りてないんだ。


 増えすぎた頭の重さに耐えられなくなってる。

 それが不味いと思ってるのか、ヒュドラ本体の動きも鈍い。


「なんだかぞっとするな。頭が多過ぎる」


 ここまでの功労者の1人のリリスさんがそんな感想を。


 ……正直、彼女に関しては魔法を使うときの姉さんの護衛をしてくれればいいやって思ってたから

 そんなにアタッカーの役割は期待してなかったけど。


 なかなか強かった。

 助かった。


 まあ、彼女に対する労いは後で良いよな。


 俺は……


 増えすぎた首から来る自重、情報量に対処不能になってるヒュドラの胴体を。


 鋼鉄の剣で思い切り斬りつけた。

 折れたら困るなと思ったけど、これはそうでもしないとやれないだろ。


 胴体の両断。


 ……別にさ、生き物を殺すのは斬首が必須ってわけじゃないわけで。


 かなりざっくり斬れて、ヒュドラの内臓がまろび出た。

 饂飩うどんみたいに。


 シャアアアアア!!


 ヒュドラの中央の首が音を立てる。

 悲鳴みたいなもんなんだろうか?


 俺は斬り付けた後、


「姉さん、焼いて」


 仕上げを姉さんに頼んだ。


 ……これで問題無いよな。

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