第30話 呪いの泉

 泉っていうからさ。


 てっきり、澄んだ冷たい水が湛えられてる綺麗な水たまりを想像してたのよ。

 それこそ、そこの水を飲めるくらい綺麗なのを。

 だけど


 実際は……


 ……湯気が立っていた。


 温泉じゃん。

 岩温泉。

 しかも結構デカイ。

 直径10メートルくらいありそう。


 お湯に手を突っ込んでみた。

 結構熱い。


 ここに肩まで浸かって100を数えろと言うのか……


 結構キチイな。

 そんなことを考えていると。


「さぁ、ひとっ風呂浴びて下さいィ」


 ロリアがニチャアと笑いながら、俺に入浴を勧めてくる。

 笑顔がなんか引っ掛かったけど。

 まぁ、そうしないと話が進まないしな。


 俺は脱ぐ前にジェシカさんに


「俺の脱ぐところは見たくないでしょうから、目を背けて下さい」


 そう言って、着ていた旅人が着る服を脱いでいく。

 丈夫な素材で出来た、冒険者の標準装備。


「わ、分かりました」


 俺の言葉を受けて。

 ジェシカさんは後ろを向いてくれた。

 俺はその言葉を聞きつつ


 上を脱いで。下を脱いで。


 パンツを脱いだ。


 ちゃんと全部畳んで。


 うん。

 すっぽんぽんだ。


 俺のそんな様子に


 ……姉さんは特に気にしないで、周囲を警戒してて。


 ジェシカさんは意識的に見ないように。


 そしてロリアがガン見していた。


 俺の股間をしげしげと見つめて


「……勇者様のはズル剥けで真っ黒なんですねェ」


 やかましいな。

 マジで。


 とはいえ、気にはなったが騒ぐ気は無かったので聞き流していると。


 ロリアはなんかメモ取りを開始してる。


 ……記録してどうすんのよ。


 まあ別にいいけど。

 外で言われても恥ずかしいわけじゃ無いし。


 俺は温泉に入った。

 ざぶざぶ入った。


 ……熱い。


 腰を下ろし、肩まで浸かる。


 うう、熱いなあ。


 肌に噛み付く熱さだった。


「い~ち」


 俺が耐えられる時間には限界があるし。

 俺は早速数を数え始めた。


 本音を言えば素早く数えたいんだけど、後から「そんな数え方は駄目」って言われると困るし。

 常識的な範囲内の数え方を徹底した。


「ご~お」


 あっつぅぅぅぅ!

 歯を食いしばって耐えながら数を数える。


 仲間たちがそんな俺を見守ってくれる。


 そしてカウントが10に到達しようとしたときだった。


 突如、温泉の湯が盛り上がったんだ。


 一瞬熱さを忘れた。


 そして湯の中から現れたものは。


 体長2メートルを超える大きさのワニ……


 それは緑色のワニだった。

 明るい緑色だ。


 そんなのが突然俺の傍に現れたんだ。


 流石にびっくりする。

 何なんだ……?


 ワニは俺をしげしげと見つめている。


 何が狙いだ……?

 カウントも忘れ、見入る。


 それなりの時間、俺たちは互いの出方を伺っていた。

 そして次の瞬間だった。


 ……ワニがその大顎を開いて、喰いかかって来たんだ!

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