第29話 たった一つの冴えたやり方

 物陰にジェシカさんを引っ張り込んで


「何を言ってるんですか!?」


 咎める口調で俺が言うと


「大丈夫です。これは別に姦淫の罪にはなりません」


 正当な理由がありますし。

 なんて覚悟を決めた顔で言うんだけど……


「いや、そういう問題じゃ無いですから!」


 俺がそう言うと


「じゃあどうするんですか? あの人はおそらく説法が効かない人ですよ?」


 六大神教の開祖様も


「魂の位階が一定基準にまで到達していない者に、やっきになって真理について説法しても意味がない。その段階まで自然到達して、その者が真理の存在に気づくのを待て」


 ……と仰ってますし。


 そんなことをジェシカさん。

 開祖、そんなこと言ってたのか……!


 まぁ、言わんとするところは分かんなくも無いんだけど。


 常識が通じない相手に何を言っても無駄である。

 ようはそういうことだろ!?


 だけどさ!


「だからと言って、仲間の女性が売春まがいのことをするのを見過ごせないですよ!」


 そんなことをされたら、俺はこの先どんな顔してジェシカさんと旅をすれば良いっていうんだ!?


 そう思っていたら


「じゃあ、私が行くわ」


 今度は姉さんが名乗りを挙げた。

 ちょっと待ってよ。


 姉さんは


十牙テンガが道中売ってたから、それで何とか」


 そんなことを口にする。

 十牙テンガ……限りなくホンモノそっくりと名高い、切れ目の入ったコンニャクの代替物。


十牙テンガでどうするんだよ!」


 俺の言葉に


「恥ずかしいからという理由で目隠しさせて、その後十牙テンガを使ってやり過ごすわ」


 姉さんは全く乱れの無い声で自分の策を開示してくれた。

 姉さんは別に自分が犠牲になる気は無いらしい。


 なるほど! 確かに十牙テンガを使えばやり過ごせるかもしれない!


 だけど!


「サマールが目隠しを拒否したらどうする気なんだ!?」


「そのときはそのときよ。そうならないように考えて動くから」


 任せなさい、と姉さんはいうんだけど。

 そんな言葉で納得できるわけがないわけで


 そんな気持ちを伝えると


「そういう気持ちは嬉しいけど、じゃあどうするのという話よね」


 アルフ、どこかで決断は要るのよ、と。


 姉さんの言うことはもっともで、正しいとは思うけど。

 どうしても俺にはその決断ができなかった……


 そんなときだった。


 今度はロリアが手を挙げて来たんだ。

 ニチャニチャ笑いながら。

 そして


「わっちに妙案がありましてェ」


 また、妙なイントネーションの言葉で。


 俺に重要な情報を教えてくれたんだよ……




 というわけで。

 例によってロリアの持っていた情報で。


 俺たちは町外れに来ていた。

 サマールには「ちょっと考えさせてくれ」と言い残し、保留状態にして、だ。


 ここに……泉があるらしいんだよね。


 近づいてはいけないと言われている、呪われた泉が


 ……ロリアが教えてくれたんだ。


「実はですねェ、この街の町外れに、この国がまだ大陸を統一していなかった時代に、魔王の怒りを買って若い娘が投げ込まれ、溺死したと伝えられる泉があるんですよォ」


 悲劇的伝説。

 それ以来……


「それ以来、その泉にすっぽんぽんで入って肩まで浸かって100数えてしまうと、水を引っ掻けられると若い女に変身してしまう体質になってしまうんだそうですゥ」


 裸で肩まで浸かって100を数えると、水を被ったときに女体化する体質になる泉……


 ロリアの策は、その泉で俺が女体化の能力を獲得し、十牙テンガを使って俺がサマールの相手をするという策だった。


 ……ジェシカさんと姉さんを守るには……

 それしか……無いか……!

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