第99話 現象を操る指輪
閃いたこと。
間を置くわけにはいかない。
誰かに相談したいけど、そうすると相手が何か対策を立ててくるかもしれないだろ。
だから俺は
「ジェシカさん」
声量を押さえて、傍にいたジェシカさんに話し掛ける。
ジェシカさんの視線を感じた。
俺は振り向かずに、言う。
「神官魔法で、俺から痛覚を取り除くことは出来ますか?」
……怯むことだけは避けたい。
この一撃を。
だから俺は頼んだんだ。
そんな俺の言葉を聞き、ジェシカさんは
「できますよ」
そう、短く応えてくれて。
「彼の人の 痛みの素を 取り除き」
ジェシカさんの祝詞。
その言葉を聞いた瞬間。
俺は身体に違和感を感じた。
多分、痛覚が消失した影響か。
……いくぞ!
「姉さん! 念動力でサウラスを拘束してくれ!」
力の限り叫ぶ。
さっき、念動力を打ち消されたばかりだ。
だから
数瞬、間があった。
多分、迷いがあったんだと思う。
そんなの意味がない。
そう言おうと思ったんだと思う。
だけど
「……分かった!」
最終的に、俺の言葉を受け入れてくれた。
サウラスの動きが鈍る……
姉さんの念動力が効いているんだ。
打ち消そうと思えば打ち消せるのに……!
なので俺の大上段の斬り下ろしは、サウラスの兜を真っ向から捉える。
俺が全力で振り下ろした天空神剣ターズデスカリバー。
不壊不滅の剣の神器。
どれだけの力が加わっても決して壊れない。
最初の鋭さを永久に維持する。
それが基本能力……!
俺の力で振り下ろせば、それが何であろうが切断してみせる……!
俺の剣はサウラスの頭を割った。
その瞬間に。
俺はずっと脳内で編んでいた術式を魔法として解き放った!
「喰らえェェェェッ!!」
……俺が、幼少期から魔法の修行でずっと鍛えて来た魔法……。
雷の魔法!
……思えば、雷の魔法を鍛え続けて来たのは。
このためだったのかもしれないな。
根拠ゼロだけど、なんとなくそう思ってしまった。
グアアアアアアアアッ!
激しい高圧電流が俺の剣から流れ出し、サウラスの全身を打ち据えて。
案の定、サウラスはそれを無効化できなくて
俺の剣が頭頂部から股間までを唐竹にすると。
サウラスの身体の表面には何の傷も無かったけど。
サウラスはガクン、と膝をついて。
ドシャ、と前のめりに倒れ伏して。
そのまま、魔将サウラスは2度と起き上がってこなかった。
……俺の閃きは正しかった。
サウラスは、頭を割られるのと、姉さんの魔法を無効化することを同時にすることを徹底して避けていた。
そして頭を割られるのが避けられない場合、姉さんの魔法を無効化することを諦めていた。
……これの意味すること。
それは、指輪のチカラで無効化できる項目は1つだけ。
そういうことだ。
2つ同時に来たら、片方は指輪ナシで処理しなければならない。
だから、ああいう動きをしてたんだよ。
なので俺は、唐竹割りと雷撃魔法の同時攻撃をした。
魔法を使いながらだから、剣の精度は落ちるけど、そこは姉さんの念動力でカバーして貰う。
俺の斬撃を避けるために、念動力を無効化したら、避け切れずに唐竹割りを喰らってしまった場合に無効化できないからな。
だからあえて念動力を無視してくると踏んでいたけど。
読みが当たってよかったよ。
……魔将サウラス……
倒れて、おそらく死んでいるこの魔物を見て、思う。
……ここでいきなり出会った魔物だけど。
あまり悪い存在には思えなかった。
魔王に近い地位の魔物だったみたいだし、何かあるのかもしれない。
「悪い。失礼するぞ」
そう一言入れて。
俺は死んだサウラスの胴に背中から斬撃を加える。
もう、斬撃の無効化は起きない。
サウラスの鎧の胴の背中側に、裂け目が出来て。
中に動かない触手のようなものと。
その先に光る指輪を見つけた。
おそらく触手はサウラスの本体のもので。
指輪は……
俺は鎧の中に手を突っ込み。
その光る指輪を拾い上げる。
その指輪は金色の指輪で。
宝石のような装飾物は無かったけど……
本来なら石座がある位置に目のデザインが彫り込まれていた。
……何で目なんだろうな……?
現象は、目で見ないと観測できないとか、そういうことなんだろうか……?
本物かどうかを調べるには、嵌めてみるのが一番だ。
だから俺は、手袋を外し。
右手の人差し指に嵌めた。
すると……
何だか、自分の頭の中に新しい領域が開く感覚があった。
……これは、魔法修行の結果、灯りの魔法が使えるようになったときの感覚に似てる……
思い付きで。
右掌を上に向け、炎をイメージした。
炎を右掌の上に召喚し、炎を扱えることを他人にアピールするイメージ……
すると、俺のイメージが現実になった。
ボワッと炎が出現し、驚いた俺は
「ウワッ!」
そう叫んだ。
……でも
これは間違いなく、本物の神器だ……!
こうして俺は、最後の神器「自在の指輪ウェンドスリング」を手に入れたんだ。
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