第117話 未来への希望
「キミたちを待っている未来は、普通の人間と同じだ。むしろ僕が関わっている分、より不幸の無い未来が……」
「不幸が無いって何を根拠に言ってるんだよッ!?」
サンヴィリア様は穏やかに俺たちを元気づけるように言ったけど。
また俺は火が付き、言い返してしまっていた。
「アンタ、人間を設定でしか見て無いだろッ? だから親父に対して『心から愛している者に対する振る舞い』なんてことが言えるんだよなッ!?」
サンヴィリア様は親父を愛していなかった。
いや、厳密には愛してはいたかもしれないが、それは全ての人間に向ける愛と同質のもので。
女が男に向ける愛じゃないんだ。
それをサンヴィリア様は自身の考える「女が心から男に惚れたらどういう行動を取るのか?」ということの黄金パターン。
それを姿を消すまでずっと演じ続けた。
そして実際、親父はその演技を死ぬまでずっと真実だと信じ続けて。
そのまま昇天したんだ……。
サンヴィリア様は「彼がそれで納得できたのであればそれでいいじゃないか」と言いたいんだと思う。
でも……
「偽物を信じた親父は、アンタに馬鹿にされて一生を終えたんだよ……それをぬかりなかったみたいに言われるのは許せないよ……」
俺の言葉に。
サンヴィリア様は
「……僕が……勇者アルティアを侮辱した……?」
……何故か。ショックを受けていた。
「十の願い……侮辱か……」
その言葉は悲しみに沈んでいて。
「僕は、ひとりの純朴な男を、偽りの愛で死地に向かわせ、そのまま死なせたんだな……」
その言葉は
「僕が彼に近づかなければ、偽物では無く本物の伴侶の愛が手に入ったのかもしれないのに……」
懺悔に満ちていた。
神様が……親父に詫びている……?
「悪かった……本当に悪かった。……自身の目的のために、落ち度のないひとりの人間の可能性を摘んだことを心から謝罪する」
……信じられない思いだった。
でも。
サンヴィリア様の暗い表情は本物で……
神様が、こんなことで嘘を吐くわけがない。
「……こんなことでは……人間を清浄な存在に導くのは不可能だ……僕自身が清浄では無いじゃないか……!」
顔に手を当てて。
神の嘆き。
そして
「だったら……僕の使命は何なんだ……?」
その言葉を聞いたとき。
俺は言っていた。
「だったら希望をくれよサンヴィリア様!」
俺の言葉に、サンヴィリア様は顔を上げた。
驚いていた。
俺は構わずに続ける。
「アンタ言っただろ! 俺たちの未来が……俺がセリスと歩む未来が、普通より不幸が無いもののはずだって!」
俺はサンヴィリア様から目を逸らさず、言葉を叩きつける。
「アンタのその言葉を俺とセリスが馬鹿みたいに信じてしまえるような……未来への希望をくれ!」
「希望……?」
俺の言葉を繰り返す神様。
俺は頷いた。
「未来のことだけは人間ではどうしようもないことだろ!? そここそが、神様の領域なんじゃないのかサンヴィリア様!」
その、瞬間だった。
……サンヴィリア様の身体が
光の粒子になって崩れ始めた。
「おお……」
そんな状態になったサンヴィリア様は
信じられない、夢が叶った。
そんな、歓喜の表情を浮かべていた。
そして
「……そうか。これが僕が世界に刻みつけるべきコトだったんだな」
そう呟き。
僕は、この世界の幸運になる。
そう言い残して。
完全に世界に溶けて、消えたんだ……
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