第116話 人間なの?

「彼女は紛れもない人間だッ! 僕の化身じゃないッ! 誤解するな人間なんだッ!」


「それに関してはキミもそうだッ! 確かに僕の体細胞に勇者アルティアの因子を組み合わせて創り出したのがキミだが、そのときの僕は人間の肉体に化身していたッ! だからキミは普通に人間なんだッ!」


 ……必死にそう教えてくれたんだ。

 セリスが人間ではない別の存在である可能性に思い当たったときに。


 そして忘れていた……


 俺もそうなんだよな……

 人間と人間の女に化身した神の間に出来た子なのに。

 そんな俺が……果たして普通の人間なのかって……!


「サンヴィリア様」


 そこでセリスが言ったんだ。


「……私は普通の人間ですか? どこで私を拾ったんですか?」


 その言葉は、本当のことを知りたい。答えてくれ。

 そんな響きでいっぱいだったよ。


「……私の一番古い確かな記憶は、魔王岬で母に……あなたに連れられて、お義父さんと出会ったときです」


 そこから前の記憶は、無いんです。

 ……セリスの声は悲痛だった。




 俺の義姉……セリスは異常だ。

 俺を12才で引き受けて、そのまま9年間も俺を育てた。

 食事の準備をしたり、家の掃除をするだけじゃないぞ?

 親父の残した多額のお金の管理も完璧にやったんだ。


 そして最も異常なのは、師匠を持たずに独学で魔術師の魔法を習得したこと。

 俺は義姉が凄すぎることに誤魔化され、その事実も流していたけど。


 変過ぎるんだよ。

 無いだろ普通に考えて。


 ……でも


 この状況を考えたら、異常ではない気がした。

 そもそも、セリスが人間の最高性能以上を発揮できるようにデザインされた人そっくりの生き物……


 そういう魔物だったらどうなんだよ……?

 別に普通じゃん。


 だってそういう生き物なんだから。


 セリスにそのことを問われたサンヴィリア様は


 露骨に顔を強張らせた。

 何でか……?


 そんなの、理由はひとつだ。


「人間と同じだ……人との間に子供だって作れる……心配要らない……」


 真正面の答えでは無いけど。

 答えてる。


 やっぱり……セリスはサンヴィリア様の立てた計画のために、一番大変なところを押し付けるためにデザインされた人間。

 ある意味、魔物と同質の存在……!


 そこで俺はセリスを見た……


 セリスの顔が沈んでいた。

 俺は……


 思わず彼女を抱きしめていた。

 魔王討伐が済むまでは関係を秘めておこうって言ったのに。


 俺も人間と同じだと言われた。

 そしてそれはセリスもだ。


 だけど……


 俺たちは本当に、一緒に生きていけるんだろうか……?

 2人とも、厳密に普通と同じ人間だとは言えないのに。

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