第115話 致命的な気づき

「してないよ! 僕は勇者アルティアを愛する者として相応しい振る舞いを行った!」


 俺の言葉をサンヴィリア様は咎めずに。

 そんな言葉を返したんだ。

 必死な感じだったよ。


 だけど俺は


「相応しい振る舞いってなんだよ!? ごっこ遊びだってことかよ!?」


 ……言葉が止まらなかった。


「ごっこ遊びじゃない! 真剣に心から愛する者の振る舞いを……」


「そういうのがごっこ遊びだって言うんだよッ! ふざけんなッ!」


 俺の頭の中で、親父の笑顔が蘇る。

 親父は自分の奥さんになってくれた女性を愛していた。


 本気で愛していたんだッ!


 明かすことで行動を止められる可能性を恐れたんだろう。

 姉さんの……セリスに俺の世話を全部押し付けて、一人旅立ってしまうくらいにッ……!


 再会したときの親父は、本当はそんな自分さえ良ければいいって人間じゃ無かった。

 町の策略で、幽霊になってしまっても、自分が消えることに関して嘆いたりしなかった。


 残りの仕事を俺に押し付けることに負い目を感じながらも、俺が目的を果たすことを祈って、笑って消えて言ったんだッ……!


 それなのに……その真実がこれかよッ……!?


「アンタが行動を起こしたせいで! 親父が消えた!」


 怒りの言葉が湧いてくる。

 止まらない。


「全部アンタのせいだッ!」


 ……神への暴言が止まらない……!




「アルフ、止めなさい!」


 俺の後ろから、セリスが抱きついて来た。

 背後から、俺の胴にセリスのほっそりした腕が回る。


 これ以上俺を放置すると、取り返しのつかないことになる。


 そんな思いがあったのか。


 だけど……


「……あの町の出来事は、僕の予想の外だったんだ」


 サンヴィリア様の言葉は、俺の言葉が逆鱗に触れたことによる神としての激昂ではなく。

 謝罪、だった。


「まさかあの町の住人が、他人を自分たちと同じ境遇に巻き込むことを喜びにするような……そんな堕ち方をしているとは考えて無かったんだ……」


 その声は血を吐くようで。

 同時に、分かった。


 親父は、1年以内に剣を含めた神器を手に入れて、目的を果たして戻ってくるつもりだったと言っていた。

 おそらくサンヴィリア様としては、まず剣だけを取らせて、他は何か理由をつけて断念させて、その後家に帰らせるつもりだったんだと思う。


 ……その方法は良く分からないけど。


 ひょっとしたら親父は、ロリアみたいな誰かと一緒に旅をしていたのかもしれない……。

 無論それはサンヴィリア様の化身で……


 でも……


「メチャクチャだろうが!? 親父のことがなくても、12才の女の子に1年も7才のガキの世話を……!」


 そう思い、怒りのままにそのことを言葉にしたとき。


 ハタと気づいた。


 そう言えば……


 良く考えると……サンヴィリア様は……無茶ぶりはしてないんだ。

 現に俺の冒険には、ロリアという形でサポートに付いて来た。


 親父に対しては、まず剣の神器の所在を教えた。


 ……なのに。


 なんでセリスにだけ、常識外れのことを要求したんだ……?

 セリスはサポートなんて貰ってないぞ……?


 俺の思考が、そこに向いた瞬間。


「誤解するなッ!」


 ……サンヴィリア様の、鋭い声が飛んできたんだ。

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