第19話 ジェシカさんに自分語り

「ロリア、ご苦労さん。休んでいいから」


 夜も更け。

 交代で寝てたんだけどね。


 ロリアが4時間起き続けてくれてたんだよ。

 見張りで。

 他のメンツは受け持ち2時間なのに。


「わっかりましたぁ。そんじゃ、お言葉に甘えましてェ」


 そして独特な言い方で、ロリアは手荷物から毛布を引っ張り出して。

 毛布を被って数秒で寝た。


 ……寝付きいいな。


 そう思いながら見張り。


 火を前にして、寝ているパーティーメンバーに囲まれながら。



 ……んー。


 そう言えば、寝てる姉さんを見るのは久しぶりな気がする。

 俺が小さいときは、一緒に寝ていたし。

 裸で水浴びをしたこともあったけど。


 父親が家から出て行った後しばらくして。

 そういうことはしなくなったし。

 一緒に寝るのもやめたんだよな。


 ……寝てる女性って色っぽいな。


 岩にもたれかかって寝てる姉さんや。

 地面に横倒しで寝ているジェシカさんに


 ……なんか色気を感じてしまった。


 まぁ、ジェシカさんはともかく。

 姉さんにそういう目で見るのは良くないだろ……


 家族なんだし。

 そう思って、見張りに集中していたら


「……ん」


 小さな声が聞こえて。


 むくっ、と


 ジェシカさんが身を起こして来た。




「なんだか寝る気が起きないです」


 起きて来たジェシカさんは、俺の隣の位置に移動して。

 見張りに加わってくれる。


「……」


 無言。


 んん。

 間が持たない。


 何か言わないといけない気がするんだけど……


 そう思っていたら


「勇者様は生まれたときから、この日のために積み重ねてらしたんですよね?」


 ポツリと。

 そんなことを


「うーん……」


 どうなのかな?

 俺は16才になったら魔王の討伐に向かわないといけない。


 このことは……


 父親が家を出た後に姉さんに言われて……


 言われて……?


『あなたは一人前になったら、魔王を倒しに旅に出るのよ』


 そのとき。

 ふと、顔の見えない女の人にそんなことを言われているイメージが湧いた。


 えっと……


「まあ、かなり子供の時分から修行は重ねてましたね」


 変な記憶が蘇ったのが気にはなったが。

 折角ジェシカさんが会話を振ってくれたんだ。


 応えないと。


「具体的には……?」


「んーと……」


 まず、剣の修行。


 内心、何で剣なのとは思ったけどさ。


 普通に考えて……素手での戦闘方法か、弓だろ。

 素手で戦えれば、タダで戦えるし。

 弓の方が剣より強いでしょどう考えても。


 でも「勇者は剣を使うもの」って言われたので、そういうもんだと思って修行した。


 続いて、魔法。


「魔法は何を使用されるんですか?」


 ジェシカさんがそう、興味津々な様子で訊いてくれるので。

 俺の方もなんだか嬉しくなって


「えーと……」


 教えた。


 灯りの魔法。

 任意の音を鳴らす魔法。

 触れたものを冷やす魔法に、反対に熱くする魔法。


 そして……


「雷の魔法ですねぇ」


 なんでも勇者は雷を扱うもの。

 他は疎かにしても良いから、これだけは手を抜くなと言われた。


 ……毎日の魔法の訓練や勉強も、雷の魔法を更に向こうの高みへと押し上げるため。


 まあそのお陰で。

 雷の魔法の実力は、姉さんの前でやっても恥ずかしくならない強さだという自負はあるね。


 その辺を話したら


「頼もしいですわ勇者様」


 そんなことを言われてしまい。

 俺は……ドキッとしてしまった。


 ジェシカさん……

 年齢は多分俺より上だけど。

 姉さんよりは年下なんだよな……


 ようは、1~2コ上のお姉さんって感じなんだよね。


 ああ、ひょっとしてこれって良い雰囲気なのでは……?

 そういう経験が無い俺は、少し気持ちがアガった。


 だけど……


 そう思ったときだった。


 女のすすり泣く声がして。


 闇の向こうから、靴も履かずにボロボロの服を身に纏った若い女が。

 泣きながら現れたんだ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る