第110話 不愉快な存在
「……どうしてそう思うのかな?」
魔王の言葉に苛立ちが混じる。
……本意では無かったのか。
見破られるのが。
魔王は根拠を訊ねてきた。
自分を七柱目であると断じる根拠を。
……そりゃ、あるさ。
魔王が神であると思う根拠。
いくつかあるけど……
その中で一番大きいのは
「六大神を信仰することを拒否した国を問答無用で滅ぼしたこと」
……魔将サウラスから聞いた話。
俺たちの国と大陸の覇を競っていたマクール王国を、王族から国民に至るまで皆殺しにした。
何で?
マクール王国だけだ。
俺たちの国・アトペント王国には一切手出しをしていない。
……こんなの。
六大神教を否定したからという理由以外、思い当たらないじゃないか。
「……マクール王国とは、王国の神殿同士の交流の記録が無かったのを思い出しました」
ジェシカさんが補足してくれた。
まぁあのとき、ジェシカさんが「そんなのでたらめです!」って言わなかったから。
それで確信を深めたところもあるんだよな。
魔物の言うことで青くなるって、よっぽどのことだろと。
あの……狂信者のジェシカさんが。
すると
……魔王が笑い始めた。
そしてこう言ったんだ。
「サウラスに口止めをしておくべきだったよ。迂闊だった」
そう、面倒くさいことになったな。
そんな顔で
魔王は認めた。
……あれ?
俺はそこでちょっと引っかかったけど。
次の言葉の衝撃で、流してしまった。
「……その通りだ。僕はサンヴィリア。七柱目の神さ」
「何で神様がッ! 魔物を創ったんですかッ!?」
魔王……サンヴィリア様が自分が神であると認めた瞬間。
弾かれたようにジェシカさんが喰って掛かった。
……気持ちは分かるよ。
自分が信仰する対象であるはずの神が、魔物を創ったなんて。
ジェシカさんのアイデンティティに関わる問題だ。
それに対してサンヴィリア様は
「……六大神教を創って、十の願いを浸透させたのに、人間が正しい存在にならないからさ」
その口調は苛々してて
「キミらの言葉で言えば『お灸を据える』これだよ……」
明確に人間を敵視し、絶え間なく攻撃を加える存在がいれば、神の加護を求めて、少しは十の願いに沿った理想社会建設に邁進してくれるだろうと。
そういう願いを込めて創ったのが「魔物」だ。
……告白した神の表情は本当に不愉快そうだった。
そして俺たちが口を挟む間を与えずに
「キミらに分かるのか? ……仲間たちが6柱、身を挺して創り上げた世界の住人の最高種が、醜く、愚かで、邪悪であることの不愉快さが?」
平気で他人を騙し、傷つけ、貶め、奪い、犯し、殺す!
やむを得ない理由があるわけではない、ただ自分の一時の欲望を満たすために平気でそれを成す!
こんな卑しい奴らを創るために、僕の仲間は身を捧げたのかッ!
キミらにこの怒りが分かるのかッ!? 分からないよねッ!?
……怒り心頭。
そのことが俺にも伝わって来る。
腹が立って仕方ないんだろうな。
お前らが清く正しく美しく生きないから、お灸を据えたのに逆切れしてくるとは、と。
そんな感じだろう。きっと……
そこに
「でも、そんな人間ばかりではありません! もっとよく人間を見て下さいサンヴィリア様!」
ジェシカさんの訴え。
「……我が家が神器を所持しておきながら、領地でそれを独占していたことを謝罪致します……」
そこに、青い顔でリリスさんが膝を折り、謝罪をはじめた。
自分の実家が神器を秘匿していたことに対する懺悔……
でも、それは別に私利私欲じゃ……
場が混乱……いや、混沌としてくる。
そのときだった。
「サンヴィリア様」
セリスが流されずに言ったんだ。
「あなたは結局一体何がしたいんですか?」
……このことを。
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