第93話 この階の試練は

 え……?

 クズ物書きの落書きレベルのエロ話……?


 でも、俺は3人とセックスした実感があるし……


 そこで。

 姉さんがロリアの意見に反論する言葉を口にした。


「でも私は、アルフに抱かれた記憶がある。騙された実感も」


 その顔は涙に濡れたままだったけど。

 己に対する厳しさがあった。

 実感がある以上、事実。

 そこを誤魔化すわけにはいかない、と。


「私もです!」


「私もだ」


 姉さんの言葉に、ジェシカさんとリリスさんの言葉が続く。

 2人についても同じ思いみたいだ。


 だけどロリアは、それを聞いた上で


「でも、変じゃないすかぁ……インキュバスがピンポイントでお三方全員を狙ってェ、目論見が全部成功するなんてェ」


 絶対にどなたかは気づくはずだと思うんですがねェ……


 お三方全員騙し通せるようなのが、インキュバスの実力ならァ、一般女性なんて絶対に太刀打ちできないっすよォ……


 そんなロリアの言葉。

 俺は……


 説得力がある気がした。

 冷静に考えると確かに変だ。

 特に姉さんがインキュバスなんかにまんまと騙されるのは信じられない。


 ……そういえば。


 俺、彼女たち3人とセックスした実感があるけど……


 彼女たちのその……裸の姿を覚えて無い。

 表情しか出て来ないんだ。


 おかしい……これは……

 そんなの、あり得るか……?


 俺、それまで童貞だったんだぞ?


 絶対に目に焼き付いて……


「……そういえば。何で後からあれはインキュバスだったんだと確信したのかが私、分からない……」


 呆然とした声で、姉さん。


「……」


 ジェシカさん、無言。

 でも多分、同じなんだろうな。


「私もそうだ……どうして私はあのときの勇者殿がインキュバスだと後で思ったんだ?」


 リリスさんの呟き。


 ロリアのツッコミで気づいたけど。

 強烈な実感だけで、論理破綻している3股疑惑と、托卵疑惑……


 これって……


「……絶対に言い訳出来ない大失敗をしたときに、正直に告白できるかどうか……?」


 そんな俺の呟きに対し


「あー」


 ロリアが少し面白そうに。

 こう言ったんだ。


「その視点で考えますとぉ、勇者様は他人の人生を破壊するようなヘマをした場合にィ、ご自分がどうなろうと決して隠さない方なんですねェ」


 ……その言葉に俺は


 ギリギリのところで、俺は彼女たちの信頼を失わずに済んだのか。

 そう思い


 ……姉さんを見た。


 姉さんも俺を見てて。


 視線が絡み合ったとき。


 ……なんだか、違って見えたんだ。


 それは……偽の実感と記憶とはいえ、姉さんと肌を合わせて妊娠させてしまった後の俺の疑似体験をしたこと。


 それが原因かもしれない……


 そのまま俺は立ち上がり。


「姉さん、行こう」


 俺は歩き出す。

 5階に向かって。


「ええ……」


 それに応じてくれた姉さんの声。

 それも、なんだか違っている気がした……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る