第95話 滅ぼされた国

「……ここまで辿り着いた人間はお前たちで2組目……。褒めて遣わすぞ」


 サウラスは俺たちをそう言って労う。

 ……魔物に労われてもな。


 リビングアーマーは構造上はカタツムリのようなカタチの魔物らしい。

 外側の鎧のように見える部分は、実はカタツムリの殻にあたる部分で。

 その中に本体を隠してるんだ。


 なのでリビングアーマーを倒す際、重要になってくるのは本体の位置の特定なんだけど……


 その方法は……

 声がどこからするかで判断するしか無いのかな?


「2組目ですって……?」


 ジェシカさんは不愉快そうにサウラスの発言に返す。


「その人たちはどうなったの……?」


「信頼関係がボロボロになっていたからな。さらに亀裂の入る言葉を何言か掛けてやると、大した労力も無く空中分解し、全滅よ」


 勝ち誇るでもなく、淡々と。

 ジェシカさんは唇を噛んだ。


 そして


「魔物め! 悪の化身め!」


 吐き捨てるような言い方で、その怒りをぶつける。


 すると


「オイオイ、我はただ、挑戦者がこの神器を手にするに相応しい存在であるかどうかを試しただけだぞ?」


 言って自分の腹部をポンポンと叩く。

 ……え?


 アイツの中にあるのか?

 最後の神器が……?


 そのせいで俺の方も聞き入ってしまう。


「魔王様のご命令で、愚かなりし人間の国から没収し、相応しい者が現れるまでそれを守護せよとのことでな」


 サウラスはそう自分の役割を言葉にした。


「没収だと!? 何様だ!?」


 そう、ジェシカさんは怒っているけど。

 そこで俺は……

 引っかかるものを感じたんだ。


 ダンタリオンも、変なことを言ってたしな。

 まるで魔物を憎むのが思慮が浅い、みたいなことを。


 だから


「なぁ……愚かな国ってどういうことだ? 何か根拠があるのか?」


 俺はそう訊ねていた。

 その俺の言葉にサウラスは俺に視線を向けて


「お前は我らが滅ぼした国がどういう国だったか知らぬのか?」


 語り出した。

 それはこんな話だった。


 ……その国の名はマクール王国。

 革命で出来た国で。

 前の国が、腐敗しきった聖職者たちのせいで、メチャクチャな状況だったらしく。

 革命を起こした男が新しく王に即位すると。


「六大神教は毒だ! 邪神の作った悪徳の教えだ!」


 と六大神教を否定したそうだ。


 ……で。

 新しく、自分こそが神であるとする宗教を作ったらしく。


 そして……


 一時期、俺たちの祖国・アトペント王国と大陸の覇者の座を狙い合う立ち位置にあったらしい。

 だからひょっとしたら、マクール王国がこの大陸の支配者になっていたのかもしれないんだ。


 その話を聞いたとき


「え……?」


 ジェシカさんの顔色が、真っ青になっていた。

 どうもジェシカさんも知らなかったらしい。


 ……この大陸の人々にとって、六大神教を否定するなんて絶対にあり得ないことだしな。

 だから何と言うか……


 マクール王国が魔物に滅ぼされて良かった。

 そんな気持ちになってしまった。


 だからかな……

 魔物に滅ぼされたという国が、そんな異常な国だったことを俺たちが知らなかったのは。


 これは俺が無知なだけ、って話じゃない。

 ジェシカさんも全く知らなかったようだし。

 ジェシカさんに限って、神器に関わることを自分で調べないなんてことはあり得ないはずだ。

 調べた上で、その異常な信仰については全く分からなかったんだ。


 ということは。

 おそらくそういう歴史を誰かが抹消したんだろう。


 何故か?

 そんなの決まってる。


 だって……

 魔物って、本当に悪なのか?


 知ってしまえばそんな気になってしまう、話だもの……

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