第108話 そして魔王の間へ
魔王の城には扉が無かった。
材質としては、石で出来た建物なのに。
……煉瓦を積んで作られた建物って感じじゃ無く。
巨大な陶芸品……そんな感じなんだ。
まるで巨大な岩山をくり抜いて作った建物のよう……。
「入りましょう」
セリスが皆を促す。
俺が先行した。
これまではロリアが担ってくれていた役目。
今は彼女は攫われて居ないから、俺がするしかない。
隣にリリスさんが立ち
「……意味不明の建物だな。継ぎ目が全く見当たらず、どうやって作ったのか全く分からない」
中は、ツルツルで綺麗だった。
最初からそういう状態でした。
そうとしか思えないくらい。
人の手でくり抜いたとはとても思えない状態なんだ。
そして。
部屋が全く無かった。
分かれ道なしの一本道だ。
ここにロリアが、母さんが……
俺の頭の中に、親父との約束が蘇る。
『俺の代わりに母さんを救って、お前は幸せに暮らすんだ』
母さんに再会したら、俺は親父の想いを伝えなければならない。
「アルフ」
継ぎ目なし、分かれ道なしの廊下を歩きながら。
セリスが俺に話し掛けて来る。
「何? 姉さん」
一応油断はしないように注意を払いつつ、俺。
セリスは
「魔王に出会っても、いきなり戦いを始めては駄目よ」
そう、釘を刺して来た。
そりゃ、当然だよね。
……この分だと、魔王の玉座の間……
囚われた人間はそこにいる可能性が高い。
継ぎ目が無いってことは、隠し部屋なんて存在しないってことだろ?
仮に巧妙に隠し部屋由来の継ぎ目を隠したんだ、ってなると。
利用する際にどこを目印にするんだという問題が発生する。
この魔王城、鋭角的な部分が一切無いんだぞ?
見つけられないじゃん。
利用する側が。
だからまずあり得ない。
廊下は楕円形のチューブみたいな感じ。
階段は無く、坂道。
そんな感じで、グルグルと上に向かう構造なんだ。
窓も無いから、外の明かりは入ってこないんだけど。
そこは、通路全体がぼんやり光ってて問題は無かった。
……そういや。
母さんの昔の旦那。
……ここにどうやって入ったんだろうか?
魔王城に不法侵入して迷惑を掛けたから、母さんは攫われたんだろ……?
そこがふと、気になった。
ブラックドラゴンの眼を搔い潜って?
……無理だろ。
確かドラゴン、眠らないんだよな。
だから寝こみを襲うって戦法が通用しない。
ハッキリ言ってさ。
これはおそらく自惚れじゃ無いんだけど……
母さんの元旦那は、無計画で夢見がちで、無鉄砲という人間のクズだ。
そんなクズ男が……
もしブラックドラゴンの眼を掻い潜って、魔王の城に不法侵入出来たなら……。
俺たちは数分以内に同じかそれ以上の侵入方法を思いついたはずだ。
無論、神器抜きでの。
特に姉さん、セリスが気づけないはずがない。
……何か……変だよな。
そんなことを思いながら歩き。
やがて……
大広間といっていい部屋に出た。
装飾も何もない、丸い部屋。
そんな部屋の奥に、ポツンと立つ後姿の人影があったんだ。
それは……
薄緑色の長い髪の人影で、スラリとしてて。
体型から性別が良く分からなかった。
衣服は……
何も着ていない。
全裸だ。
俺は
「……アンタ、もしかして魔王か?」
その後ろ姿に訊ねた。
人影は振り返り
「……そうだよ。よく来たね……」
俺たちに向かってニッコリと微笑む。
その瞳の色は、青。
顔つきは整っている。
そして中性的だった。
魔王。
自ら名乗ったその人物の正面の姿。
こっちを向いたその身体が見えたとき。
納得した。
否応なく。
……胸も無ければ、乳首も無い。
性器も無い。
陰毛も無い。
臍も無い。
……性別無し。
人じゃない。絶対に。
「ようこそ勇者。ずっと待っていたよ……」
そして魔王はその腕を大きく広げて
嬉しそうに、芝居がかった言い方で
「キミがここにやってくるのを!」
そう、言って来たんだ。
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