第90話 魔物の群れ
なんか男の魔人って言っていい化け物が、俺の名前を呼んでる!
姉さんは何処に行った!?
俺は周囲を見回した。
すると……
ハルバードを持った金毛の狼獣人が、こっちを凝視してる!
1匹のゴブリンが立ち尽くし、周囲を見回している!
そして……その奥に。
戸惑った表情のジェシカさんがいた。
……え?
ジェシカさん、さっきまでここで俺と話を……?
俺がジェシカさんが居た場所に視線を向けると。
そこには……
蛸の頭部と触手を持ち、灰色の皮膚は両生類のようにヌルヌルで。
そのヌルヌルの手に、
ええええ!?
思わず飛び退き
「姉さんは!? リリスさんは!? ロリアは!?」
いくら探しても……
って。
今さっき、ジェシカさんを視認した場所に。
今度は姉さんが居た。
え……?
混乱する。
ジェシカさんは?
今度は彼女が何処に行ったんだ?
探す。
いない。
えっと……?
また視線を戻すと、今度はそこにリリスさんが。
ここまで来ると、さすがに分かる。
これは……
「魔物メェェ!」
そこでヌルヌル蛸魔人が金毛狼獣人に襲い掛かる。
狼獣人が応戦している。
……決断しないと。
赤い肌の魔人の方を見た。
……思った通り、魔人は周囲を見回すだけで、何もしてこない。
冷静に観察してるな。
その様子で俺は決断した。
一直線に駆けた。
その先には、ジェシカさんがいた。
また、ジェシカさんが。
試しに目を背けて、再び見る。
今度は姉さんの姿になっていた。
……間違いない。
こいつが元凶だ!
俺は腰のターズデスカリバーを抜く。
刃から眩い光が溢れ出す。
そしてそのまま
俺は姉さんの姿に見えるナニカを袈裟斬りに一刀両断した。
斬られる瞬間、姉さんに見えるナニカは怯えた表情を浮かべたけど。
俺は一切無視をした。
その瞬間だった。
俺の目の前に、巨大な薄茶色の二枚貝が真っ二つになって転がっていて。
周囲を見回すと、棒立ちのロリア。
こっちを凝視している姉さん。
そして向かい合って武器を構えるジェシカさんとリリスさんがいた。
……幻覚が解けたようだ。
「……良かった。大事にならなくて」
俺がそう、納刀をしながら言うと
事態が飲み込めたのか、ジェシカさんとリリスさんが
「……ありがとう勇者様……助かりました」
「同じく……全く気付かなかったよ」
そう、俺に礼を言ってくれたんだ。
この階の試練のカラクリは。
あの二枚貝の姿の魔物が、侵入者全員に幻覚を見せていたんだ。
おそらく人間が魔物に見えるようになる幻覚魔法を。
そして自分には、仲間の姿に見えるようになる幻覚魔法を。
「気が付いたら、勇者様が別の場所に移動してて、魔物がいっぱい居るんですから驚きました」
ジェシカさんが歩きながら自分の話をしている。
どうもジェシカさんにはアイツが俺に見えていたようだ。
「私も同じだ。勇者様以外の仲間が全員消えてて本当に狼狽えたぞ」
リリスさんの言葉。
なるほど……
「……異常だから私もしばらく考えたわ。あなたがあなたの姿に斬り掛ったときは、本物ならきっと棒立ちで斬られるような無様は晒さないと信じたの」
姉さんの場合もそれで。
……どうも3人とも、アレが俺に見えていたみたいだ。
……しかし。
何で俺には、あれが姉さん、ジェシカさん、リリスさんに見えたんだ?
そこがちょっとだけ気になった。
……そういやロリアはどうなのかな?
彼女に関しては、俺も見えなかったんだけど……
先頭を歩いて罠警戒をしてくれている彼女を見て。
訊こうかな、とちょっと思ったけど。
ま、いっか。
そこで俺は思考を打ち切って、4階を目指した。
あと、2つだ。
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