第45話 予想外の回答

 久々にドキドキしながら公爵家に向かった。


 公爵様のお屋敷だ。

 そこから呼び出しが掛かるなんて。


「この格好で良いかな? 姉さん」


「特に問題無いでしょ。国王陛下に謁見するわけじゃないんだし」


「私はこういうの初めてなんですよ」


 ゾロゾロと、4人で公爵家に向かって歩いていき、辿り着くと


「お待ちしておりました」


 ……門番にそんなことを言われた。

 おお……


 これはつまり


「どうぞこちらへ」


 ……1発でイケたのか。




 大きな応接室に通される。


 豪奢な絨毯に、数々の調度品。

 そしてガラスのデスク。


 ソファに4人で座って、見回していた。

 こっそりと、だけど。


 ……立派な部屋だ。

 財政的に苦しいとか、そういうの無さそうだよな。


 そうしていたら


「よくぞ、試練を乗り越えてくれた」


 ……少し大柄の男性。

 身なりの良い男性が従者と一緒にやって来て、俺たちの前の席に座った。


 ……多分、この人が公爵その人だろうな……





 その男性は、ノウリーン地方の領主……公爵を名乗った。

 やっぱりな、と思ったけど黙って聞く。


 どこかで家宝を貸してもらうことを切り出さなきゃいけない。


 なので話の把握と、切り出すタイミングの見極めに努めた。


「ヒュドラはわりと頭が良いのでな、倒すのが手間なのもあって、試練として……」


 公爵の話す内容は、姉さんが予想していたことと合致する面もあった。

 流石だな、と思う反面。


 こうも思った。


 ……娘の結婚を餌にしなきゃならないほどでもないなぁ。


 公爵も言っていたけど、ヒュドラ退治は手間なのであって、出来ないわけじゃないっぽい。

 それなのに、娘の結婚を餌にした。


 これは……


 なので俺は思い切ったんだ。


「あの、公爵様」


 話が途切れたタイミングを見計らって、切り出した。

 俺の言葉に気づき、公爵様は俺を見る。


 俺はさらに思い切る。


 大きく息を吸い、続けた


「ご令嬢の結婚相手を、この試練で選んだのは何故ですか?」




「それは……」


 公爵様は何だか言い辛そうだった。

 その態度に、俺の方も困惑する。


 ……どういうことなんだ?


 そう、俺が困惑し、見守っていると


 公爵は


「……実は、我が娘は縁談を悉く蹴ってしまうのだ。そのやり方が問題でなぁ」


 ……何でも公爵令嬢は、婚約者に素手の立ち合いを持ちかけて、その悉くを「殴り倒す」という決着で終わらせてしまうらしい。

 で、相手が心折れて婚約破棄。

 その繰り返し。


 この家には跡取りが娘しかいないために、これは流石にマズい。


 このままでは家が絶えるので、公爵様は公爵令嬢に訊いた。


 どうすれば大人しく結婚してくれるのか? と。


 すると


「私が認める戦士であれば私は結婚します」


 こう言ったらしい。


 あー……


 予想外だった。

 まさか……マジで結婚相手を探していたなんて……!


 どうしよう……?

 俺、結婚する気なんて無いんだけど……!

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