加熱
神薙さんを襲った熱愛報道。
これによって炎上してしまった彼女だが、それでも事実無根であることを再三と繰り返し伝える中で、徐々にそれは鎮火していっていた。
そんな中で、更なる続報が飛んだのだ。
「あれって……本当なのかな?」
「いやいや!本当なわけないじゃん!」
「で、でもよぉ」
「私たちだけでも信じてあげないと!ねっ?みんな!」
その続報の内容というのが相手の男が熱愛を認めたというものであり、実際にその本人である劉淵も己の声であの報道は事実であると告げている。
劉淵は自身のチャンネルで上げた動画内において嘘をつき続けていることに耐え切れなくなり、告発することにしたと涙ながらに語っていた。
「……昨日、連絡が来なくなったのはこれが理由かな」
この報道は神薙さんにとって致命的とも言えるのかもしれない。
鎮火していたはずの炎上は神薙さんを更に燃え上がらせるばかりか、彼女の好感度を著しく下げることにまで寄与。
常に彼女の味方をしていたファンまでもが一部、愛想を尽かすまでになっている。
「いやぁー、凄まじい燃え方していますな。涙ながらに真実を語った劉淵とは一転!嘘をつき続ける悪女!と、まぁ……言いたい放題だな」
「俺は明らかに劉淵側が嘘ついていると思うんだが……ちょっと演技臭すぎでしょ」
「でも、彼の方は人気ですから」
今回、神薙さんとの熱愛報道が出た相手である劉淵はかなり人気のダンジョンライバーであり、素直で真っ直ぐなキャラとして売っていた。
ゆえに、今回嘘をつき続けるのに耐え切れなくなったという彼の弁は元々のキャラもあって熱烈に支持されてしまっているのだ。
「まぁ、劉淵も神薙さんも元々アイドル売りしていたわけじゃないし、本来であれば熱愛報道なんて些細な話なはずだしね。二人で話がすれ違っているから大変なことになっているけど」
「そこだよなぁ。劉淵もそこに触れていて、元々視聴者を騙す気もなく、清い関係を続けていたなんて話していたわけだし」
「でも、相手は大学生だろ?そもそも高校生と大学生が付き合うって何だよ」
「おっせぇなぁー。今時大学生と小学生が付き合うなんてことも普通にあるぜ!」
「んなっ!?」
「僕の神社にも大学生と中学生のカップルがお参りに来たことあるよ?」
何て失礼な奴かとも思ったが、御守りも買っていてくれたので良しとした。
「「マジかっ!?」」
僕は和人と秋斗とくだらない雑談を繰り広げながら
そんなクラスの中において、未だに神薙さんは来ていない。
「……今日、高校に来ないのかな」
このクラスは良くも悪くも圧倒的な存在感を誇る神薙さんを中心として回っているところもある。
未だに、神薙さんが来ていない現状を前にしてクラスの雰囲気はいつもより一段と暗い。
「「「……」」」
クラスメートたちの口数が減り、静かになっていく中で陰キャである僕たち三人の口数も自然と消えた。
おかげでクラスには完全なる沈黙が出来上がっている。お通夜もかくやという雰囲気である。
そんな中で一つの着信音が響く。
静寂が訪れたこの空間で、その着信音は非常に良く響いていた。
「んっ?」
鳴り響いたスマホの着信音は僕のからだった。
「あっ、神薙さんからだ」
特に何も考えずスマホを取り出して着信を確認した僕はそのまま着信の内容を口にする。
「「「……ッ!」」」
「ひんっ!?」
思わず漏らした言葉に対して、クラス中が勢いよく反応してこちらへと視線を送ってくること大して、僕は思わず悲鳴を上げる。
「あっ、え、えっと……ちょっと遅れて高校に来るってよ」
もうすぐホームルーム開始を知らせるチャイムが鳴る。
そんな時間の中で、僕は自分の方に視線を向けてくるクラスメートたちへ弱々しい声で自分のところに来た連絡内容を告げるのだった。
■■■■■
時間が朝より進んで昼休み。
「ごめんねー、ちょっと事務所の方でバタバタしちゃってて」
その時刻になってようやく神薙さんが高校へと登校してきた。
「いやいや!全然」
「今日も神薙さんに会えてよかったよ!」
「色々大変だったよな?大丈夫だったか?」
「うん、私の方は全然大丈夫だよ!これくらいじゃ負けないんだから!ただ……ごめんね、私のせいでみんなにも心配かけちゃって」
「いやいや!全然、謝れるようなことじゃないよ!むしろ、心配させてありがとう!って感じ」
「そうだよなぁ?玲香。俺たちは玲香を信じているから!常に俺たちが一緒だ!」
「そうだよ。だから安心して、ね?一人で頑張らないで、いつでも私たちが味方だから!」
「玲香ちゃんから心配をかけられるなら全然本望って感じだからね!」
「この場に玲香を信じていないやついる?いないよなぁー!」
クラス総出で神薙さんを迎え入れ、彼女に信じていると声をかけていく。
「うんっ!ありがとう、みんな」
それを受け、神薙さんは笑みを漏らしながらみんなへの感謝の言葉を口にする。
お通夜のようだったクラスの雰囲気は一変し、随分と朗らかな雰囲気になっているのだった。
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