生活

 僕を知っているのか。

 その疑問に対して、イキシアは何も答えることはなくだんまりを貫き通した。

 そんな彼女を前にして情報を聞き出すことを諦めた僕はおとなしく拠点となったこの場所で作業をしていた。


「……まさか、ここで農作業をすることになるとは」


 ダンジョンの中では魔物たちがやってくれていた作業。

 それを今、僕はこの拠点の中で原始的に行っていた。

 畑に桑を入れて耕し、種を植えていく。


「……この種が発芽するまでここで過ごすのは嫌だが」


 このままよくわからない砂漠の中で一生を過ごすというのはゾッとする。

 僕には帰らなければならない神社があるのである。

 そんなことを考えながらも僕は最悪の時をしっかり想定して種を植えて次の年の分が育つ下地を作る。

 ちなみにここの区画で取れる野菜はすでに採取済みだ。

 あれらの野菜があればしばらく生きていけるだろうという量はある……イキシアの胃の中の容量が僕の知っている彼女のままであれば。


「蓮夜くん!」


「んっ?」


 そんなことを思いながら農作業をしていた僕は神薙さんの方から声をかけられてそちらの方へと視線を向ける。

 そこには卵をもってこちらへと手を振っている彼女の姿があった。


「ニワトリさんから無事に卵を回収できたよ。そろそろお昼ご飯にしない?」


「あー、そうしようか」


 僕は神薙さんの言葉に頷き、自分の手の中にあった桑を地面に置く。


「今日は何にする?」


「今日のところは何処からかイキシアが調達してきたお肉があるからそれを使って何か作ろう」


「……イキシアは何処からお肉を回収してきているのだ」


「さ、さぁ……?」


「大事なところを教えてくれないのは一緒なんだよなぁ。僕のことを慕っているというのなら隠し事なんてしないでほしいのだけど」


「私なら絶対に隠し事なんてしないのにぃ……っと、それで。この後はどうする?」


「んー、そろそろここで自分たちの生活基盤を築くこともできてきたし……そろそろ次の段階に行きたいよね」


 すでにこの洞窟の中で暮らすこと五日。

 イキシアの行動が時折謎だったりとわかっていないこともあるが、それでもある程度生活できるようになってきた。


「と、なると……そろそろ元の世界に帰るための調査に?」

 

「そうだね」


 次のステップとしてはあたりの散策。

 具体的に言えば。 


「まずは塔だろうな」


「まぁ、すっごい目立つものね」


 僕は神薙さんとこれからのことについて話し合いながら、互いに食材をもって小さな小屋の中へと入るのだった。

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