拠点
僕と神薙さんがイキシアを追いかけて進むこと三時間くらい。
「……本当にこの先に何かあるのかしら?」
「あっ、何かある」
ようやくになって、視界の端に大きな塔のような建物が見えてくる。
ずいぶんと風化してボロボロ。
今にも崩れ落ちてしまいそうな建物ではあるもの、それでもしっかりと建物であることはしっかりと見て取れた。
今度こそ巨大な生物の死骸ってことはないと思う。
どんどんと近づいてくる塔。
「きゅーいっ!」
だが、イキシアはそのまま塔の方に行くのではなく、そこから少し離れた位置にある洞窟の中へと入っていく。
「……大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃなくても力で打ち破るしかないよ」
僕は警戒心を抱きながら神薙さんと共にイキシアを追いかけて奥へ奥へと進んでいく。
「……何ここ」
そして、洞窟の長い道を抜ければそこにはかなり広い空間が待っていた。
天井に空いた穴より光が差し込む洞窟の中。
そこにはわずかな風に揺れる自然とここに流れる小さな川の音が響いている。
「……ここなら、普通に暮らせそうね」
そうだ。
あるのは何も自然だけというわけでは決してない。
この場には小さいけどもしっかりと作物の実った畑があり、それに加えて数羽ばかりの鶏の姿もある。
ほかにも拠点になりそうな小さな家らしきものまで。
「ここを、イキシアが?」
「きゅーいっ!」
僕が思わず漏らした疑問の声にイキシアが元気よく頷く。
「……なるほど」
まるで、僕の庭のダンジョンのようだな。
一から拠点を作っていくところが。
そんなことを思った僕ではあるが、それらの思いを封じてとりあえず自分がやるべきことを考えていく。
「……まずは確認からだよね。えっと、僕たちもここで過ごしていいってことだよね?」
「きゅーいっ!」
「ここにあるものも使っていい?」
「きゅーいっ!」
「好きに過ごしていい?」
「きゅーいっ!」
次々とぶつける僕の言葉にイキシアは元気よく頷いて首を縦に振る。
「そっか、ありがとう」
「これならこのままここで何も問題なく暮らせちゃいそうだね。本当に至りつくせりで助かるわね」
「そうだね」
そう、ここまでは本当に至りつくせりである。
となると浮かんでくるのが……なんで、イキシアがここまでしてくれるかだ。
おそらくは僕の知っているイキシアと今いる彼女が別であるというのに。
「……ちなみに僕を知っている?」
僕はイキシアへとさらにもう一つだけ、自分の質問を投げかける。
「……」
だが、それにイキシアは何も答えないのだった。
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