珍状況

 突如として地面からイキシアが飛び出し、僕の方へと抱き着いて頬を舐めまわしだしてからしばし。


「……ふぅー」


 神薙さんの協力のもとに僕はイキシアを何とかひっぺ剥がすことに成功した。

 今はイキシアを自分の膝の上で優しく撫でまわしているところである。


「それで?誰かわからないってどういうこと……?まんま、イキシアちゃんじゃない?」


 舐めまわされていた自分を助けてくれた神薙さんは僕に対して疑問の声を上げる。


「匂いが違う。この子から感じる匂いはちょっとイキシアと違う」


 僕は自分の膝を枕にして寝転んでいるイキシアのお腹へと鼻を擦り付けながら答える。


「……僕の知るイキシアよりも獣臭いかな」


 目の前にいるイキシアと、自分がガチャで引き当てたイキシアとでは匂いが違う。

 あの子は何か甘ったるい本能に訴えかけてくるような馨しい匂いがするのだ。


「それだけ?」


「あとは本能的な直感。僕のはよく当たるのだよ、ちょっぴり普通の人とは違うからね」


「……うーん、それは何か説得力がある」


「ありがとう……それで、だよなぁ。僕の知らないイキシアが急に現れて、どうしろというのか」


 僕の知らないイキシアが自分に懐いており、あたりを見渡せば結局のところただ広い砂漠が広がっている。

 絶望的な状況は何も変わっていない。


「とりあえず、私もイキシアを吸わせて」


「……えっ?」


 そんなことを考えていた中、神薙さんは先ほどまで僕が顔をうずめていたところに続いてうずめ始める。


「ふふふ」


 そして、そのまま神薙さんは笑みを漏らし始める。

 いや、どういう状況?

 ただ、こんなことをしている場合ではないことだけはしっかりとわかる。

 イキシアのお腹がもふもふで魅力的なのは激しく同意するところではあるけど。


「ねぇ、イキシア」


 そんな中、僕はイキシアへと声をかける。


「きゅーいっ?」


「……」


 やっぱり言葉は通じているな。

 イキシアって名前は僕が彼女のつけた固有名詞で種族名ではないはずなのだけど……なんでこれで通じるのやら。


「僕と神薙さんはここが何処かわからなくて途方にくれてしまっているのだよね。とりあえずのところ、お水とご飯。それと寝床がいるのだけど、どこか良いところは知らない?」


 僕は疑問に思いながらもイキシアへと疑問の声をぶつける。


「きゅーいっ!」

 

 それを受け、イキシアは意気揚々と立ちあがるとそのままとある方向に向けて歩き始める。


「……ん?ついてこいってこと?」


「きゅーいっ!」


 僕の疑問に頷いたイキシアはそのまま力強く砂漠の上を走り始める。

 そして、そのあとを僕と神薙さんは追いかけていくのだった。

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